アメリカからのシェールガスの輸入について、自由貿易協定(free trade agreement)との関係があるということで、アメリカの法令に当たってみて正確なところを調べてみました。


 関係法令は、「Natural Gas Act of 1938」でして、そのSection 3です。ちょっと英語で長いのですが、関係するところを書きぬきます。


【Natural Gas Act 0f 1938, Section 3, Chapter 15B Natural Gas】

§ 717b. Exportation or importation of natural gas; LNG terminals
(a) Mandatory authorization order
After six months from June 21, 1938, no person shall export any natural gas from the United
States to a foreign country or import any natural gas from a foreign country without first having secured an order of the Commission(注:Federal Power Commission) authorizing it to do so. The Commission shall issue such order upon application, unless, after opportunity for hearing, it finds that the proposed exportation or importation will not be consistent with the public interest.


(略)


(c) Expedited application and approval process
For purposes of subsection (a) of this section, the importation of the natural gas referred to in subsection (b) of this section, or the exportation of natural gas to a nation with which there is in effect a free trade agreement requiring national treatment for trade in natural gas, shall be deemed to be consistent with the public interest, and applications for such importation or exportation shall be granted without modification or delay.


 これを読んでみると、外国への天然ガスの輸出については、独立の機関である連邦動力委員会(federal power commission)の承認命令が必要となります。そして、その命令に際しては聴聞を行った上で、その輸出が公益(public interest)に合致したものでなくてはなりません。


 自由貿易協定との関係で言えば、自由貿易協定によって輸出した天然ガスの内国民待遇が保障されている国への輸出については、上記の公益に合致しているものとみなし、早急に承認されなくてはならないということになっています。


 これだけを読んでみると、日本がアメリカからシェールガスを輸入することは完全にダメだということではないです。あくまでも公益に沿っていると連邦動力委員会が認めればいいだけです。ただ、自由貿易協定がある国はその承認に際して、多分聴聞自体が省略され、すぐに輸出を認めてもらえることになります。


 しかも、日本が現時点で輸入しようとすると、連邦動力委員会での承認に時間がかかるのみならず、同委員会からあれこれと条件を付けられる可能性が高いです(上記(a)の(略)としているところにそういう規定があります。)。一方で、自由貿易協定がある国は、迅速にかつ輸出申請に対して「修正なしで(without modification)」承認が与えられるわけですから、その違いは明らかです。


 この違いは大きいですね。安倍総理がオバマ大統領にシェールガスの輸出を求めていましたが、これは独立の委員会による判断ですから、大統領限りでは如何ともし難いところがあります(勿論、委員が大統領の任命によるためその意向は大きいですが)。自由貿易協定が締結されていることがとても重要になってきます。


 これはTPPの議論の際にあまり語られないですね。福島第一原子力発電所の事故以降、火力発電分の増加で天然ガスの輸入が急増しています。その中、日本は足元を見られてプレミアム付きで買わされています。そういう状況の打開策として、輸入先の多角化と交渉ポジションの強化を図っていくことはとても重要なことであると思います。その中で自由貿易協定がアメリカとの間で存在していないということが重石になっているということは認識されなくてはなりません。


 勿論、日米FTAでもいいじゃないかという議論はあるでしょう(私が日米FTAはあまり宜しくないという考えであることは何度も書いているところです。)。いずれにせよ、エネルギー問題とアメリカとの自由貿易協定の存在ということはもっともっと議論されるべきであると思います。