来年度予算で、国債整理基金特別会計の減債基金を取り崩して、借換債の財源に充当するという報道がありました。昔からこれを主張している人はかなりいましたが、これまでの政権はすべて撥ねつけてきたものです。細かいことは分かりませんが、これはとても危ないことだと思います。


 制度を説明するのは、ちょっと骨が折れます。昔、私がエントリー を書いています。何とか分かりやすく書いたつもりですけども、多分とても分かりにくいと思います。そして、このエントリーを書いた後に、国会で質問もしています。これも分かりにくいですけど、一応載せておきます。


【議事録(平成23年10月26日・衆議院財務金融委員会)

○緒方委員 民主党、緒方林太郎でございます。
 この委員会で初めての質疑でありまして、委員長そして理事の皆様方に御礼を申し上げたいと思います。
 私、まず一つ目は、最近補正予算の財源とかでよく出てくる国債整理基金特別会計の減債基金制度について取り上げさせていただきたいと思います。
 今、十三兆円近く積立金としてたまっているわけでありますが、そもそもこの減債基金制度、何でこんなものが設けられているんでしょうか。財務省。

○鷲見政府参考人 お答えいたします。
 国債整理基金の減債基金に関しましての意義及び定率繰り入れの仕組みについて御説明させていただきたいと思います。
 まず第一に、減債制度の意義でございますけれども、国債の発行と申しますのも借金でございますので、借金をするときに、どれぐらいの期間で返すのかということは極めて大事だというふうに考えてございます。そういうことで、国債の発行に当たりましては、財政規律と投資家の信認の観点から、その償還方法についてあらかじめ定めておく必要があるという考え方でございます。
 我が国の減債制度におきましては、建設国債の見合いの資産でございます橋や道路、こういった建築物などの平均的な効用の発揮期間がおおむね六十年であるということから、この期間内に公債の現金償還を終了するように、いわゆる六十年償還ルールを制度的に確立しておるところでございます。これが我が国において国債償還に対する市場の信認の礎となっているというふうに考えてございます
 なお、毎年度の特例公債法に基づいて発行されますいわゆる特例公債につきましては、その見合いの資産がございませんので、その発行の根拠となる各年の法律におきまして速やかな減債に努めるものとするというふうにされてございまして、市場の状況等に応じて繰り上げ償還を行っているところでございます。
 なお、こうした財政規律に関する取り組みは主要先進国においてさまざまございまして、例えば、米国では連邦債務残高の上限を法定してございますし、ドイツでは憲法で赤字幅を制限するなど、それぞれの経緯や国情に応じた仕組みがとられておるところと承知をいたしております。
 次に、定率繰り入れの仕組みについてでございます。
 発行した国債を全体として六十年で償還するために、前年度の始まりの時点での国債残高の一・六%を一般会計から国債整理基金特別会計に償還財源として繰り入れるよう、いわゆる定率繰り入れが法律で定められておりまして、これが減債制度の根幹ということになります。
 なお、国債の償還に当たりましては、定率繰り入れだけでは制度上償還額に不十分でございまして、これに加えて、各年度の一般会計の剰余金、あるいは必要に応じて予算繰り入れを行うということで、全体として六十年で償還する仕組みとなってございます。
 また、定率繰り入れの仕組みとして、国債の発行を最初に新規財源債として発行したその後、経過期間が短い間は減債基金の残高が積み上がるという性質がございます。ですから、委員御指摘のように、現在積み上がっておりますのは、現在のところ、いわゆる若い国債、発行後余り時間がたっていない国債が国債残高に占める比率が大きくて、各年度の償還額よりも繰入額の方が大きくなるために、いわば一時的に、時間のずれのために基金残高が積み上がっているというところでございます。
 しかしながら、さきに申しましたとおり、この基金だけで将来の償還を全部カバーできるわけではございませんので、借りかえを繰り返しまして、ある程度の年数が経過いたしますにつれてこの基金残高は減っていく、そういう性質のものでございます。

○緒方委員 非常に包括的な説明をありがとうございました。
 今伺った話をそのまままとめると、一つ国債を立てると、六十年間の命があるとすると、だんだんだんだん償還していって、未償還分がどんどん減っていく、それに対して一・六%の定率繰り入れをしていくということですので、若いうちはばんばんばんばん定率繰り入れの額がたまっていくんですけれども、それこそ四十年目、五十年目、六十年目となるにつれて、もう一般会計からどんどん繰り入れていかないと償還がなかなか難しいと。
 そういうふうに考えると、今十三兆円積み立っているのは、まさに今から十数年前に、小渕政権のときにばんと立てた、巨額の国債を発行した分とか、そういった分がまだ十年、十五年というところにあるので十三兆円積み立っているだけであって、これからどんどんどんどんその国債が年をとっていくにつれて定率繰り入れが減っていく。それによって、減っていくものだから、結局、今積み立っているものというのは見かけだけで積み立っているだけであって、将来的に国債を償還していくに際して、これから財政再建の努力もされると思いますので、国債の新規発行額がふえないということを前提にすれば、これは減っていくと。
 もう一度、確認ですけれども、そういう理解でよろしいでしょうか。

○鷲見政府参考人 結構でございます。

○緒方委員 ということでありますので、なかなかこれを取り崩すのは難しいし、仮に減債制度を今全部やめてしまう、もうこういう制度を全部やめて、償還が来たときにだけまた新規の財源の国債を発行すればということになる場合、突然ばんと、例えば十年ごとにお金をそれだけ調達しなきゃいけないということなので、非常に不都合な状況が生じるのかなと思いますし、減債制度をやめたときには、そのときそのとき、将来にまた増税をするなりなんなりして新しい財源を持ってこなきゃいけない局面が来るということだろうと思います。なので、なかなか、減債基金の十三兆円というものを、積み立てたものを今復興のためとかなんとか、そういったことに使うのは難しいのではないかというふうに私は理解をいたしました。
 財務大臣、いかがでしょうか。

○安住国務大臣 緒方さんの九月二十六日付のブログ(注:上記リンクのブログ)というのが非
常におもしろくて、きのう私、夜読みまして、今のうちの説明は、多分一般の国民に言わせたらわかりにくいんですけれども、この緒方さんの書いたものは非常にわかりやすいんですね。
 例えば六百億円の国債を立てたときにどうなるかということであなたは書いておられるわけですね。十年ですから、初年は一・六七掛ける六百億掛ける十なんだから、これは大体百億ですよね。そして、償還が十年だったら、これは予定どおりいくと。ところが、これが次に五百になるわけですね。五百掛ける一・六七で、これは今度は八十四億になるから、百だから、マイナス十六億になるわけですよ、十年後、五百になれば。これが今度四百になれば、さらに穴がふえていきますよと。十年後に百億返すのに穴がふえていくのに対して減債基金を使っているということなんです。そういうことの方が多分わかりやすい説明だと思うんです。
 そういうことからいうと、この減債基金をもしほかのものに使えば、一般会計でこれをやはり繰り入れざるを得なくなるので、小渕内閣のときの返済というのは、今十年物で来ていると、昨年ぐらいは十兆前後ですけれども、その前、ピークのときは二十兆近い定率繰り入れがあったと聞いておりますので、この先も非常に、大量国債を発行していくと、この制度というのは、今の中でいえば、やはりこの減債基金というものを取り崩すというわけには私はいかないというふうに思っております。

○緒方委員 時々、定率繰り入れをやめたらどうか、過去に何回も例があるだろうと。十一回だったかな、何か定率繰り入れをやめたことがあるではないかということでありましたが、定率繰り入れをやめたその過去の実績について御答弁いただければと思います。

○鷲見政府参考人 お答え申し上げます。
 定率繰り入れは、御指摘のとおり、過去に十一回停止をしたことがございます。そのうち、一番最近では平成七年でございます。もう相当前になりますが。
 過去に停止いたしましたときは、国債残高がまだ少なくて、大量の償還を迎えていなかった昭和五十七年から平成元年度まで、それから、NTT株の売却収入等の別途の財源を有していた平成五年とか七年、こういった時期に行われたことでございます。
 御指摘のように、国債市場を取り巻く環境を見ましても、財政状況が当時より著しく悪化しておりますし、財政規律に対する市場の意識もよりセンシティブになってございますので、こういった当時
と比べてマーケットリスクが著しく増加しているのではないかというふうに考えております。

○緒方委員 そうですね。バブルの時期だったり特別な収入が生じたときに定率繰り入れをやめたということでありまして、今こういうものをとめるときに、本当に日本は国債を償還する気があるのかというマーケットの信頼にかかわる問題でありまして、私は、個人的には、この国債整理基金特別会計減債基金の制度に余り手をつけない方がいいのではないかなというふうに思っております。

【議事録終了】


 なお、本当にザクッと言うと、「国債の償還期限が来た時に、その都度財源を用意して償還するのではなく、ある程度(注:全額ではない)、事前に償還財源を用意しておいて、突然ガバッと大きな負担が生じないようにしている」ということです。そして、60年ルールで国債を立てる時、制度上、「若い(国債発行後0-20年くらいのもの)」国債は減債基金が多く積み上がるようになっているため、小渕政権あたりで起債したものが多い現状では、減債基金の金額が積み上がっているということです。


 つまり、この減債基金は、今の制度上は将来の使い道(国債の償還)が決まっているものです。仮にこれがないのであれば、将来、償還期限が来た時にその額を丸ごと用立てなくてはならなくなります。つまり、将来の負担増を前提としない限り、この減債基金の取り崩しはあり得ないものです。つまり、将来の増税(か、税収増)で補うことが想定されるわけです。


 したがって、仮に取り崩すとすると、上記議事録で財務省事務方が答弁しているものとは完全に背馳することになります。国会審議でどういうやり取りになるのかなと首を傾げてしまいます。


 これらをすべて纏めると、論点としてあり得るのは以下のようなものでしょう。


① この減債基金は埋蔵金ではない。

② 減債基金を取り崩すということは将来の負担増に繋がる。

③ 現在、想定している償還計画の見直しが必要となる。

④ ストックの取り崩しなので単年度限りの措置である。


 政府側は、①と②は言いたがらないでしょうけども、これを認めさせなくてはなりません。そして、③についてもきちんと今後の「(大きく棄損した)減債基金を前提とした新計画」を表明してもらう必要があります。④については、まあ、言わずもがなですけども、きちんと確認する必要があります。


 そして、政府側の答弁として想定されるのは、以下のどれかではないかと思います。


① 景気回復をすれば、今回の取り崩し分は充当する。

② 今回の取り崩しは、借換債の財源に充当するのであり、いずれにせよ国債の償還という大きな目標からは外れていない。


 ただ、①については、今回「取り崩せる」という(誤った)印象を与えてしまった以上、将来的に景気が回復した際にその税収分をこの減債基金に振り向けることに対する政治的な困難は容易に想定されます。また、②についても、借換債と償還財源を一緒にするような議論は筋違いです。


 一番、気になるのは勿論「将来の負担増」ですけども、それと同じくらい気になるのが「マーケットの反応」です。この減債基金があるからこそ、日本の国債償還に向けた取組に疑義を挟まれることはなかったわけですが、今回を契機に「実は日本は国債償還する意志が弱くなったのではないか」というふうに判断し始めるのではないかという不安が拭えません。日本の国債に対する信認が揺らぐ時、世界経済に何が起こるのでしょうか。


 私は現政権の経済政策の中で、金融政策については(賛成はしませんし、その長期的な効果についても疑義がありますが)「まあ、選択肢の一つとして何が何でも反対するとまでは言わない」という感じです。他方、財政政策については非常に強い恐怖感を抱きます。「減債基金取り崩しで国債発行額を抑制」、とんでもない暴論です。


 自民党政権とか、民主党政権とかはもうどうでもいいのです。ともかく日本が上手く回って行けばいいのです。その観点から私は自民党批判はしません。ただ、今の政権のこの減債基金取り崩しの政策はとても、とても危険です。仮に民主党政権がこの政策を取ろうとしたら、私は同じことを言ったと思います。


 財務省事務方は政務に対して相当に抵抗したことでしょう。多分、借換債の財源に充てるというところに落ち着いたのは、「国債の償還という大きな目標から外れたところに充てることだけは勘弁してほしい」ということで指一本だけ引っ掛けたのだろうと思います。ちょっと比喩表現が悪いですが、「博打打ちで借金を抱えた夫が、子どもの学資保険に手を付けようとして、奥さんが『アンタ、それだけは…』とすがる。それに対して、夫が『うるさい、これで一発勝負を掛けるんだ』と言って学資保険の通帳を持っていってしまう。妻はおいおいと泣きながら、『アンタ』と叫びながら家を出て行く夫にすがる。」みたいな(コントではよくあるけど、実はドラマとしては一度も見たことのない)シーンを想起させます。