公益法人改革の下、(旧)公益法人の新公益法人への移行が進んでいます。今年の11月30日までに、新公益法人に移行するか、一般法人に移行するかどうかを決めなくてはなりません。内閣府の方で色々な審査がなされています。


 結構見ていると面白いところがあって、同種の団体でも公益を選択したところと一般を選択したところが分かれます。例えば、青年会議所(JC)は全国組織や一部の地域JCは公益社団法人ですが、一般社団法人の道を歩んだJCもあり、私が所属している北九州JCは一般社団法人です(別にそれが悪いわけでも何でもありません。)。新公益法人になると、内閣府の長としての内閣総理大臣による監督が行われる一方で、税制上の優遇があったりします。


 そういった中、移行の残された「大玉」があります。まだ、新法人形態に未移行の財団法人日本相撲協会です。そもそも論として、あの団体は財団法人なのかということが疑問です。20年前、大学で民法を学んだ時、たしか教授が「あの法人、財団法人というのは変なんですけどね」と言っていた記憶があります。普通に考えたら、社団法人のはずです。ただ、財団と社団では色々な制度、経理等が違うようでして、私がある有識者に「公益法人であろうと、一般法人であろうと、これを機に財団から社団に組織形態を変えさせたらどうですか?」と話したら、「とてつもない作業が生じるはずですよ。無理だと思います。」ということでした。


 日本相撲協会がこれまで公益法人である財団法人であり得たのは、いわゆる興行の部分ではなく、相撲の普及の部分が目的とされているからです。寄付行為においては「この法人は、わが国固有の国技である相撲道を研究し、相撲の技術を練磨し、その指導普及を図るとともに、これに必要な施設を経営し、もって相撲道の維持発展と国民の心身の向上に寄与することを目的とする。」となっています。また、その背景には大正時代、天皇賜杯を賜る際に、一民間団体に出すことはできないという背景があり、日本相撲協会を半ば強引に財団法人にしたということが大きいです。つまり、公益性があるから財団法人にしたというよりも、財団法人にしないといけない他の事由があったために公益性を拵えたとすら言えるかもしれません。


 しかし、今の日本相撲協会の活動は興行の部分が大きいのはご承知のとおりです。公益法人であるにもかかわらず、営利性があり、職業的な要素の強い興行を行っているのは相撲くらいです。プロ野球、Jリーグの団体が公益法人であることは到底想定されないのと比較すれば、税制で優遇されている日本相撲協会への厚遇は特筆されます。近年の力士暴行、薬物、野球賭博、八百長の問題は内部コンプライアンスを疑わせるものがあります。特に興行のキモである八百長については、(公益性認定の部分とは直接関係ないものの)深刻なものがあります。あと、私からするととても違和感があるのは、一度薬物問題で引責辞任した北の湖理事長が武蔵川、放駒と理事長を経た後、当然のように理事長に戻ってきたことです。内部の論理、身内を守る論理がとても優先される組織なんだなあと思ったものです。


 しかも、理事クラスになってくると年収2000万円です。別に国から補助金が出ているわけではありませんけど、上記のように税制での優遇があります。公務員OBがいるわけではありませんから天下り財団法人ではないのですけど、現職の際調べた記憶ではたしか財団法人の中で最も高給なのは日本相撲協会だったと思います。


 その他にも年寄名跡移譲の際の金銭の授受についてもこれまでコンプライアンスが問われてきました。昔、輪島が年寄株を担保に入れて相撲協会から追放されたことがありました。かつては億単位のカネが動くとされていました。記憶が正しければ、年寄株を協会一括管理して、引退する親方には功労金を払うという話がありましたが、これとて協会が赤字であることを理由に潰れたようです(記憶が正しくないので違っていたら申し訳ありません。)。現年寄が年寄株を譲る際に後継指名権は残っているようですし、それに伴う金銭の授受は裏で続いているのではないでしょうか。その手の授受が税制上、どう処理されているのかも気になります。


 いずれにせよ、この話、日本相撲協会を見ていると「賜杯がある限り、うちが公益性を認められないことはない」くらいの感覚があるように見えてなりません。上記の繰り返しですが、「一民間法人に陛下が賜杯を出すことはあり得ない」→「かといって、賜杯のない大相撲はあり得ない」→「日本相撲協会には公益性が当然認められるだろう」という理屈が大前提にあるような気がしてなりません。元々寄付行為と実際の活動の関係で公益性が問われる組織であり、その運営においてもコンプライアンス等の問題があるわけでして、本来であれば公益性認定においては「かなりグレー」です。最後のとっかかりは「賜杯があるから」しかありません。


 制度の本義から言えば、公益性を認定せずに一般法人として頑張ってもらうというのがいいように思います。勿論、日本相撲協会には大激震が走るでしょう。宮内庁に「すいません、一般法人になっちゃいました」と頭を下げに行き、賜杯に関する善後策を検討しなくてはならないでしょう。ただ、日本相撲協会が公益性を当然視しているかのような態度でいるのは違和感があります。