アメリカのダニエル・イノウエ上院議員(ハワイ州選出)が昨年末、逝去されました。昨年1月に訪米した際、お会いして記憶に新しいだけに残念です(イノウエ議員、ノーマン・ミネタ元運輸長官、アイリーン・ヒラノ氏(イノウエ氏夫人)との貴重な写真 )。御冥福を祈るばかりです。


 第二次世界大戦時、日系アメリカ人からなる陸軍第442連隊戦闘団は欧州戦線の最激戦地に配属されました(そして、イノウエ氏は戦いの中で右腕を失っています。)。1963年から50年近く上院議員を務め、最後は議長代行(pro-tempore)として最強の委員会である歳入委員会(appropriations committee)の委員長を務めていました。お会いした際、「私のような人間が今、議員として最高位にあることが出来る、それがアメリカだ。」と語っていたことがとても印象的でした。ミネタ元長官と合わせて、日系の誇りと言っていいでしょう。


 一方で、私は日本のメディアでイノウエ氏が日系であることを殊更に強調する報道が目立ったことにはちょっとした違和感を持ちました。「日系であること」は「日本に特別な配慮をしてくれる」ということとは必ずしも同義ではありません。実際、イノウエ議員は日米貿易摩擦の際、非常に激しい日本バッシングの先頭に立っていました。


 日本国内では、日系アメリカ人の方々に一方的な、しかし根拠のないシンパシーを期待しがちです。ここに勘違いの元があります。カリフォルニア選出のマイク・ホンダ下院議員が慰安婦問題や南京事件への謝罪と補償を要求していることに対して、その不当性に関する論陣を展開することは日本としてやるべきですが、「日系なのに、何故・・・」と思うのは間違いです。イノウエ議員にせよ、ホンダ議員にせよ、それ以外の多くの日系議員にせよ、すべて「アメリカの議員」であり、彼らが信ずるアメリカの国益を代弁しているだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。勝手なシンパシーをこちらから押し付けて、勝手に期待を裏切られた気持ちになってはいけません(そして、相手側もそんなシンパシーを持っていないことが大半です。持っている時はむしろ幸運なケースです。)。彼らの議会での活躍を期待することは、かつて同胞であった日本人としての感情の発露としてあってもいいですけど、それ以上の期待は戒めなくてはなりません。


 なので、イノウエ氏逝去に際して「日本との重要なパイプを失う」と報じてあるのを見ると、それはそれで真実なのでしょうが、意地の悪い見方をすると「日系であることに依拠したパイプ作りは程々に。」ということになります。私はアメリカ、ブラジル、南米にいる日系の方は日本にとっての財産だと思います。ただ、「日系だから○○である」という想定は絶対に持つべきではないと戒めています。


 色々と書きましたけど、イノウエ議員の逝去を聞き、アメリカ政界の巨星堕つという思いです。1年前、若い我々に激励の言葉を貰ったことは一生忘れないでしょう。