中学校の必修で柔道が取り入れられるようになりましたが、先日も「髄液漏れの症状を持っている生徒が少なくとも3名」という悲しいニュースを聞きました。国政においても大きな課題となっています。中学校で柔道を始めて27年になる身として色々と思うことがあります。


 まず、教えることのできる先生がきちんと育成できているのかな、と幾許かの不安があります。一番厳格なことを言うと、柔道の世界では三段までは免状に「日本伝講道館柔道ノ修行ニ精力ヲ尽シ大ニ其ノ進歩ヲ見タリ依テ(初、弐、三)段ニ列ス向後益々研磨可有之者也」とあります。簡単に言うと、「これからもしっかり練習して頑張れよ」ということが書いてあります。四段と五段は「多年日本伝講道館柔道ノ修行ニ精力ヲ尽シ業精熟ニ至レリ依テ(四~五)段ニ列ス向後益々研磨シ斯道ニ於テ可期為先達者也」となり、指導者登録になります。


 さすがに、私も学校で教えるためには四段以上でなくてはならないとまで言うつもりはありませんが、初段を持っているだけの方にはちょっと荷が重いだろうとも思います。私はかなりの温情で三段を取っていますが、教えろと言われるとかなり悩むでしょう(なお、弐段まではかなり本格的に取りに行きました。)。


 その中でも、立ち技はあまりお勧めしません。特に投げられる側が頭を打ちやすい大外刈り、投げる側が頭を突っ込んで首を悪くしがちな内股みたいな技は要注意です。ともかく後頭部、頸椎の2つのポイントは気をつけなくてはなりません。


 大外刈りは大技ではありますが、投げる原理が分かりやすいので教えやすい技でもあります。ただ、真後ろに投げられる技なので受身をしにくいというか、受身をしても頭を打ちやすい技です。長らくやっている私でも激しく大外刈りで投げられると、時折ガーンと後頭部を打って目が回ることがあります。


 本来であれば、受身を徹底的に教えることからスタートです。私が中学で始めた際には、受身だけで1ヶ月やらされました。「つまんないな」と思いつつも、恩師本田先生は受身しかやらせてくれませんでした。今、思うと指導方法としては正しかったと思います。受身というのは基本中の基本ですから、時間をかけてやるべきです。たしかに単調なことが多いので、ずっとやらせていると中学生は飽きてくるでしょう。教員育成の際、「如何に受身を楽しく、そして多様なかたちで教えるか」という点に重点を置くべきだと思います。


 それでも私は中学生に立ち技を自由にやらせることにはとても慎重です。どうしても実戦的なことをやりたいのであれば、中学時代は寝技を教え込むのがいいんじゃないかなと思ったりします。絞め技と関節技をやらなければ、寝技はかなり楽しくやれるでしょう。一般論として、柔道の立ち技はセンスが必要になってきますが、寝技はやればやっただけ強くなります(そして、私は寝技が弱いです。)。体のどの部分を押さえれば、少ない力で相手の全身を制することができるかというのを教えるのは難しいのですけども、寝技であれば少しくらい自由に実戦形式でやらせてもいいかなという気がします(繰り返しますが、絞め技と関節技はなしで。)。


 今、思い直すと、よく中学時代は怪我をしました。鎖骨を折ったのも、足の靭帯が伸びたのも、足の指が折れたのも、全部中学時代でした。そして、私も試合で人の鎖骨を折ったことがあります。部活でやっていても、まだまだ体格が追いついていなかったのかなと思い返します。(不謹慎を承知で)究極の事を言えば、腕の骨折、足の骨折は治りますが、頸椎と後頭部は生命やその後の人生に影響しますから、ここをどう守るかという視点をもっともっと重視すべきだと信じて疑いません。