国家戦略室エネルギー環境会議の今後のエネルギー構成の選択肢 で、ゼロシナリオについては、原子力発電所をゼロにするため、再生可能エネルギーの比率を(私の常識観の中では)ちょっと無理なのではないかと思うくらい積み上げ、かつ省エネの度合いを高めています。


 再生可能エネルギーの比率積み上げの問題点については、既に多くの指摘がなされているので、今日は省エネの方の意外な論点を指摘したいと思います。


 2010年で3.9億klのエネルギー消費を、2030年には3.0億klまで削減することになっています。実はこの「選択肢」の陰の主役というのは「CO2削減25%」です。勿論、2010年比で22%削減ですから、鳩山総理が主張した1990年比25%とは似て非なるものです。ただ、国家戦略室は意図してか、意図せずにかは分かりませんが、このCO2削減の話をクローズアップしないようにしているように見えます。この省エネ(CO2削減)のところでかなりキツい「たが」が嵌っている事をきちんと説明した方がいいと思います。そこが上手く外れれば、もう少しエネルギー構成のところに(論理的には)自由度が出るはずですから。


 しかし、それよりも深刻なことがあります。というのも、このモデルは2010年代は1.1%、2020年代は0.8%の成長率で作られています(外生変数として与えられているだけですが)。まあ、これが政権の成長戦略で目指す数字より低いではないかという論点はありますが、それはここでは触れません。


 成長率がエネルギー消費量に対して中立である限り、成長率に応じてエネルギー消費量は増えます。しかし、このモデルではその部分を全く織り込んでいません。ある有識者が内閣官房にこの点を聞いたら、「成長率分は通常の技術革新による省エネで吸収することになっている」という回答だったそうです。ということは、既にこの段階で2010年代は毎年1.1%、2020年代は年0.8%の省エネが実現することが当然のものとして織り込まれているわけです。今日のエントリーのポイントはここです。


 したがって、上記の20年間で22%のエネルギー消費量削減というのは、それらの当然視されている省エネに更にオントップで乗ってくる省エネなわけです。20年で22%ですから、年1%強の省エネを追加的にやることが求められます。そうすると、全部合算すると2010年代は年2.2-2.3%、2020年代は2%弱の省エネを毎年実現していかなくてはならないということです。勿論、成長率に対するエネルギー消費の弾性値は大きくマイナスです。そんなことが本当に可能なのかなと思います。


 この強烈な省エネ、第一段のみならず第二段、第三段と省エネを上積みしないと、このゼロシナリオは成立しない状況です。それが可能かどうかはこれからの話です。もしかしたら可能なのかもしれません。しかし、楽観的にそれを当然視することはとても危険なことです。理想は大事なことですが、現実に全く立脚しない理想は妄想になってしまいます。理想と妄想とを混同しないことはとても大切なことです。