地方自治体の長と閣僚は兼務できるか、というテーマがあります。まあ、色々な考え方があるのでしょうが、どちらもフルタイムでやらないとやれないものだと私は思いますので、あまり軽々しく考えない方がいいでしょう。


 ただ、フランスではこういうことが普通に起こります。あの国にはcumul des mandatsという言葉がありまして、簡単に言いますと複数の行政機関の長や公選職を兼務することを指します。フランスではむしろ、これまでそういうのが当たり前だったのですが、さすがに無理があるということで、オランド政権ではこのcumul des mandatsの問題を解決しようとしています。ジョスパン元首相を長とした委員会が設けられ、議論を深めているところです。


 一番強烈な兼職のケースは、ジャック・シラク元大統領です。シラク氏は1977-1995年の間、ずっとパリ市長をやっていました。常にパリ市を牙城としながら、大統領選挙のチャンスを窺っていたと言えるでしょう。しかし、その間で首相を務めていた時(1986-88)以外は南仏コレーズ県を選挙区とする国民議会議員(日本で言う衆議院)を務めていました。イメージ的には福岡県選出の衆議院議員をやりながら、東京都知事をやるようなものです。しかも、1986年に総選挙に勝ち、首相になった時は、(国会議員と閣僚兼務はできないため議員辞職した上で)首相職とパリ市長職を兼務していました。しかも、1988年には大統領選挙が予定されており、シラク首相はそれに出馬するつもりだったので、大統領選挙候補の肩書もそこに付け加わりました。勿論、野党共和国連合(RPR)の党首でもありました。


 まあ、このシラク氏のケースはきわめて特殊です。首相職をやっている時期のパリ市のマネージメントは何名かの助役が実質的にやっていました。パリ市市長というのは、シラク氏にとっては政治的シンボルの意味合いが強く、他の職務との関係で実際のマネージメントへの関与には一定の制約があったように思います(ただし、その時代の汚職で今、シラク氏は裁判で追及されています。)。


 ちなみに現在のフランスではこんなルールがあります。


○ 国会議員は、以下の地方公選職を1つだけ務めることができる(注:日本とは違い、各議長は行政府の長となる。)。

- 地方議会議長、副議長、議員

- 県議会議長、副議長、議員

- 人口3500人以上の市の市長、副市長、議員

○ 行政府の長を複数兼務できない。


 ということは、国会議員で地方議会副議長をやりながら、かつ人口3500人以下の市の市長をやることも可能です。これは閣僚でも同じです(最近の内閣ではできるだけ兼務をしないよう推奨していますが)。結果として、フランスの国会議員は87%が地方議会での足場を持っています。新しい造語として、フランス語には「cumulard(キュミュラール)」というのがあります。「兼職者」くらいの意味なのですが、若干否定的かつ批判的な響きがあります。


 ただ、さすがに最近、このルールに問題が多いということで、上記のジョスパン委員会で検討されています。理由は幾つかありまして、まず、国会議員が地元にベッタリ貼りついてしまって、国会での活動を疎かにしがちだということがあります。「本会議の時以外、上京してこない」というのは、日本の国会でもそれに近い議員がいますが、兼職が可能となっているフランスでは更に深刻なようです。あと、これは日本でもあり得ると思うのですが、国会議員と地方での公選職の間に利益相反みたいなものが生じ得るということも指摘されています。「国会議員としては無駄な事業だと思うが、市長としてはぜひ実現してほしいプロジェクト」がある時に、その者はどう動くべきかということですね。その他にも、兼職をしている特定の政治家の地盤が強くなり過ぎて、新人が国会や地方政治に入ってきにくくなるということもあるでしょう。


 ちょっと、日本で行われている議論とは対照関係にないところもありますけど、フランスのcumul des mandatsの議論というのは、今後地方自治体の長が閣僚を兼務する可能性を検討する際にしっかりと踏まえるべきです。ただし、「フランスでやれているから日本でもやれる」とは思わない方がいいでしょう。日本の閣僚の国会での拘束の度合いは、他国に比して常軌を逸していますからね。