10月号の文芸春秋アンケートで「衆参全議員に公開質問状」ということで記事が出ています。私は回答しており、以下の部分が掲載されています。


● 首相公選制について

「首相と議会多数派がねじれた際の解決の手段を提示しないならば、首相公選制は無責任以外の何物でもない。」


● 現在の政治情勢について

「政権に安住しすぎた党と政権交代だけを合言葉にした党。その両党が政権をとること自体を自己目的化したことが最大の不幸。一期生の国会議員として虚心坦懐に見ていると、今の状況は大正デモクラシー末期とのアナロジー(類似性)がある。二大政党制が過熱しすぎた結果、煽る必要のなかった統帥権干犯問題を政党政治が煽ったこと、そして、その状態に倦んだ国民は議会外にある世直し勢力(当時は軍)に喝采を送ったこと、どこか、今の政治に重なり合うものはないだろうか。」


 首相公選制については、かつてあれこれと書きました(ココ )。このエントリーの思いを一言でまとめるとアンケートのようになります。首相公選制推進派の方にも、この問題意識をぶつけていますが、まだ納得のいく回答が返ってきたことは一度もありません。私は「首相公選制がポピュリズムの温床になる。」といった議論には与しません。それは単なる情緒論であり、ポピュリズムは制度にかかわらず生じうるものだからです。そうではなくて、制度的に動かなくなることへの懸念についてのみ問題意識を持っています。


 現在の政治状況については、ロンドン軍縮会議での対英米比7割の巡洋艦比率で浜口雄幸内閣が妥結したことを統帥権干犯だと煽ったのは政党政治であったという事実を最近よく考えます。研究では、当時の日本の実力からしても7割というのはとても妥当というか破格な数字であり、そもそもそれ以上の保有は現実的でなかったとされています。また、大日本帝国憲法を読んでみても、海軍大臣を含む内閣が天皇陛下を輔弼するわけですから、こういう国際交渉で何かを決めてくること自体がおかしいということでもないでしょう。


 勿論、当時海軍軍令部から反対が出たのは想定の範囲内としても、政友会の鳩山一朗が執拗に浜口雄幸内閣を追求し、最後は浜口首相の暗殺に至ります。これで殆ど戦前日本の政党政治は力を失ってしまい、最後には犬養首相暗殺の5.15事件で政党政治の終焉を迎え、軍が台頭してくるきっかけになりました。大正デモクラシー末期には、政党政治に対する評価が著しく低かったことも忘れてはなりません。


 政権をとるために煽らなくてもいいことを煽り、それが国民の離反を招いた、今の政治状況と似ているような気がします。今、民主党代表選、自民党総裁選が行われており、今後の政治をどうするかということについて大いなる議論がなされています。私が聞く限り、石破茂さんはこのあたりのことを意識している発言が目立ちます。とても共感します。


 今、政治には偉大なるwisdomが求められていると思います。民主党は政権奪取のためにやり過ぎたところがありました。そして、今の野党もやり過ぎだと思います。ちょっと文脈は違いますが、浜口雄幸首相の「男子の本懐」という言葉を改めて噛みしめています。