松下忠洋大臣の訃報は驚きました。大臣就任直後、財務金融委員会で質問の機会があり、郵政の問題だったり、TPPの問題だったりと、質問したばかりでして、まだその時のことをはっきりと覚えています。


 私が外務省に入った時、最初に通商関係の部局に配属されました。外務省に合格した後、何故か私はツボにハマったように通商問題の勉強を始めました。残された大学生活の中で、石黒一憲教授のゼミを取り、手探りの状態からあれこれと通商問題を勉強していたのですが、その流れで入省した後も配属されたのはそういう部局でした。


 そして、当時はGATTウルグアイラウンドの結果作られたWTO協定の国会承認で盛り上がっていた時期でした。以前も書きましたが、WTO協定の妥結の際は自民党は野党、国会承認の際は与党ということで、プロセス全体がとても捻じれた感じがしました。そんな中、自民党の農水族議員の強硬派のところにいたのが松下忠洋議員であり、故松岡利勝議員でした。最重要課題であったコメのミニマムアクセス受入等で、怖い形相の松下議員から局長、課長が怒られていたのを思い出します。


 それから18年、郵政解散で落選後、国民新党の議員として国政に復帰し、経済産業副大臣を歴任される中、松下議員は「自分はかつてGATTウルグアイラウンドの妥結の際、国会承認の際、農水族の最強硬派で鳴らしたものだ。しかし、自分は間違っていた。TPPを始めとする経済連携は進めなくてはいけないのだ。」といった趣旨のことをよく話しておられました。経済産業副大臣として、金融担当大臣として、私に何度か「TPP、頑張ろうな。」とお声掛けいただいたことが忘れられません。


 あくまでも一般論ですが、いかなる案件でも強硬派で有名な人が賛成を主張する時は強いのです。同じく農水族の強硬派であった松岡利勝議員は、経済連携の中でも農業分野的には最難関と言われるオーストラリアとの交渉を推進する立場でした。松岡議員が推進する以上、反対派もあまり声を出しにくかったのですね。私のように、最初から賛成の人間もいないといけないのですが、最後の最後は最強硬派が首を縦に振ることが政治的にはとても大事であり、それがないと物事が動かないというのが常です。ちょっとタイプの違う話ですが、中東和平はイスラエルの政権に対パレスチナ強硬派が就いている時の方が動きやすいということがあります。これも同じことでして、強硬派を説得できるのは同じ陣営の人達なのです。


 そういう思いがある中、今後、TPPを動かしていく中、松下大臣には(所掌は違うものの)元強硬派として色々な場面でご活躍いただきたかった、そして個人的にももっとご指導いただきたかった、そんなことを思います。本当に、本当に残念でなりません。