最近、特に消費者庁関係の話が好きでして首をちょこっとだけ突っ込んでいます。ともすれば、消費者関係の話というのは、国会でも関心のある方が比較的限られるのでフロンティアが広いというのを実感します。


 今日は日本版クラス・アクション、集団的消費者団体被害回復に係る訴訟制度というものについてちょっと思いを書き残したいと思います。これは何かと言うと、消費者被害の1つ1つは小さいけども、数が多くて、かつ共通の内容であるものは、訴訟をまとめてやれるようにしようという「お纏めサービス」みたいなものだと理解してもらえばいいです。


 この制度はアメリカで非常によく行われているものです。今回、消費者庁が提示してきている制度は、まず第一弾で消費者被害に共通している部分をお纏めして訴訟を行い、その後、第二弾で個別の話は簡易なかたちでケリをつけましょうということになっています。具体的なイメージはココ です。


 私はこういう制度を設けることに反対することはありません。むしろ、推進派です。ただ、それを前提としつつ幾つかの留保があります。


● 濫訴、更には(和解を狙った)脅迫のおそれ

 この制度には弁護士の関与が強く求められます。訴訟を起こすことのできる特定適格消費者団体には弁護士が理事で入ることが要件です。私が危惧するのは一部の弁護士達が需要を掘り起こしにかかるのではないかということです。本来、あまり問題にすべきでもないようなことでも、訴訟を起こして勝てば規模が大きいですから巨額の弁護士料が入るというのはアメリカでよく起こっていることです。特定適格消費者団体の皮を被りつつ、濫訴されては日本の企業はたまりません。

 もっと言うと、アメリカでもそうですが、この制度は訴訟に至る前の「和解」が厄介なのです。相手に「訴訟されると面倒くさいから和解するか」と思わせるように活躍する弁護士の姿が思い浮かびます。「団体訴訟起こしますよ」と脅しをかけながら、和解金を取ろうとするビジネスが流行らないようにしないといけません。

 何故、こんな事を書いているかというと、消費者金融の過払い返還訴訟の件での行きすぎがあるからです。東京で電車に乗ると、「あなたのお金取り戻します」と書いた弁護士、司法書士の広告をよく見ます。グレーゾーン金利が否定され、判例上、過払い返還訴訟はすべて認められることになっているのを否定しているわけではありません。ただし、最近、どう見ても「やり過ぎ」と思える事案もよく耳にします。

 「集団的消費者団体被害」なるものの需要掘り起こしに、一部の司法関係者が東奔西走するような世の中が正しいかというと、それは違うのではないかと思います。そういう意味で濫訴、和解目的の脅迫の懸念は払拭する必要があります。


● 「瑕疵担保責任」まで含むのか。

 瑕疵担保責任というのは、無過失責任と解されています。無過失責任モノまでこの団体訴訟の対象にされてしまうと、企業は常に膨大なリスクを抱えることになります。しかも、瑕疵担保責任で軽微なもので普通の人ならば全然気にしないような瑕疵であっても、それが団体訴訟で認められた結果、被害者意識の全くない人までがどんどん訴訟に入ってくるということになったら本末転倒です。

 もっと言うと、こういう制度では対象は、リアルに損害が出ていることだけに限定しておくくらいでいいのではないかと思います。また、責任のレベルでも過失の度合いが少ないものについては除外すべきではないかと思います。企業がちょっとでもミスをしたら、実害を感じていない人までもが裁判に入ってきて膨大な損害を求められるような制度になってはたまりません。


● 過去の消費者被害を含むのか。

 今でも被害が続いているからという理由で、この制度が過去の事案にも適用され、結果として永遠に遡及されてしまうという可能性があります。

 ここは私的にも少し悩ましいと思っているところです。この団体訴訟制度によって、これまで光の当たらなかった人にも光が当たるようになるという点では遡及(というか、現在でも被害が続いている人への適用)には肯定的な気持ちがないわけではありませんが、かといって、やり方を間違えると企業はこの法律成立とともに、過去の案件で団体訴訟を持ち込まれるかもしれないという、予測可能性を欠く膨大なリスクを抱えるということも気になります。

 少なくとも書類を読む限りは遡及関係が現時点ではあまり明確ではありません。何となく「時効になっていなければすべて適用あり」と言いたいのかなとは思いますが、現時点では、それに対してすぐに「はい、分かりました」とは言うことに躊躇いがあります。


● 特定適格消費者団体の数

 この特定適格消費者団体が訴訟を起こすことのできる団体となります。ベースとなるのは、消費者契約法に基づく差止請求権を行使できる適格消費者団体と言われる団体なのですが、これが少ないのです。最近まで九州には1つもありませんでしたが、最近大分に1つできました。全国で現在10団体です。東北、北陸、東海、四国には一つもありません。

 非常に単純な疑問なのですが、そういう団体のない地域でローカル性の高い集団的消費者被害事案が生じたらどうするのかな、遠くの事務所まで相談に行かなきゃいけないのかな、ということです。 


 まだ、他にも幾つか気になることがあります。簡単に言うと「あまりやり過ぎると企業競争力を著しく削ぐ可能性があるから要注意」ということなんですけどね。