消費者安全法の改正に関して、衆議院消費者特別委員会で質問に立ちました。前日の午後、委員会開催が決まったため、質問者を受ける人があまりいなかったようです。「質問依頼は絶対に断らない」というポリシーを貫いている私は、ちょっと考えて受けることにしました。質問の映像はココ です。


 今回の法改正の概要はこんな感じ です。消費者庁の下に、生命・身体分野の消費者事故等の原因を究明するための調査等をする消費者安全調査委員会を設けることと、もう一つは多数消費者財産被害事態と呼ばれるすきま事案への対応です。


 すきま事案というのは、まあ簡単に言うと「権利性が定かでないものの取引であるが故に、これまでの各省庁の法律で拾っていない案件」を指します。具体的には、イラクのディナール紙幣の販売とか、実体のない権利の取引とか、基本的には「相当に筋が悪いものを口八丁手八丁で売りつけていく手法」です。あまりに筋が悪いものであるが故に、これまでの法律では拾えていなかったのです。これを消費者庁が拾っていくことにするという法律改正になるわけですが、これで法律の不存在によって対応できないという事例をなくすことができるということになります。


 私が質問したのは組織論が大半でした。結果として、すきま事案にはあまり踏み込むことが出来なかったのはちょっと残念です。


 今、消費者行政においては、内閣府に消費者庁と消費者委員会という組織があります。消費者庁というのは消費者の視点から政策全般を監視する組織ですが、それとは別に、消費者行政に関連する各中央省庁を監視し、問題がないかチェックするのが主要な任務とする消費者委員会という組織があります。内閣府の外局としての消費者庁、内閣府の審議会等としての消費者委員会、それに加え現在は独立行政法人の国民生活センターもあります。そして、今回、消費者庁の審議会等という扱いで消費者安全調査委員会が出来ます。


 私が気になったのは「組織が多過ぎじゃないか?」ということです。消費者庁という組織が真の意味で強く、独立した組織であれば、消費者委員会も今回の安全調査委員会もすべて消費者庁の中の一つの行政組織として置いていいはずです。消費者行政を取り巻く状況がスタンダードだとするなら、すべての省庁を同じような建てつけにしないといけないはずですが、さすがにそうはなりません。試行錯誤感がまだ漂っている感じがします。将来的には色々な意味で組織統合が必要になってくるでしょう。なお、消費者委員会が消費者庁から切り離された経緯は、民主党が野党時代に消費者権利院というものを主張し、それが今の消費者委員会として成立する際、消費者庁から切り離すことを求めたという経緯がありますから、この組織の輻輳については我々にも責任があります。


 一般的に審議会等は国家行政組織法第八条に基づいて設けられるもの(八条委員会)であり、相対的に独立性が低いと言われます(消費者委員会は内閣府設置法第五十四条に根拠がありますが基本的には同じです。)。逆に国家行政組織法第三条に基づいて設けられる組織(三条委員会)は独立性が高いです。例えば、運輸関係の事故調査等を行う運輸安全委員会は三条委員会です。逆に今回の消費者安全調査委員会は八条委員会です。あまり私は三条委員会、八条委員会の違いには拘らないのですけど、同じ事故でも、運輸関係の調査は独立性が高い必要があって、消費者関係の調査は独立性が低くてもいいかのような印象を与えかねないのが気になりました。正直、大臣答弁はあまりピンと来ませんでしたが、後は組織にどう魂を入れるかですから、発足後は独立性高くガンガン頑張ってほしいです。


 実は一番気になったのは、消費者安全調査委員会は関係行政機関の長に直接勧告をすることが出来ないことです。出来るのはせいぜい意見具申だけです。これはこの委員会が審議会等という一段独立性の低い扱いであることから来ているのだと思います。勧告や措置要求は大臣からやってもらわなくてはならないことになります。


 しかしです。この消費者安全調査委員会、ひいては消費者庁の主任の大臣は、内閣府特命担当大臣(消費者庁担当)である松原仁大臣ではありません。内閣府特命担当大臣は、内閣府の所掌事務を分掌しているわけではないので、結果として主任の大臣は(内閣府の大臣としての)内閣総理大臣なのです。かつて防衛省も同様でしたが、色々なことをやろうとすると消費者庁は(内閣府の大臣としての)内閣総理大臣が権限を振るわなくてはなりません。例えば、消費者庁関係で何か案件を閣議に掛けようとすると、その依頼文は(内閣府の大臣としての)内閣総理大臣から(内閣の長としての)内閣総理大臣に発しなくてはなりません。差出人と受取人が同一人物という極めて間の抜けた文書が当たり前のように行き交っているということになります。


 ちょっと小難しいですが、つまりは消費者安全委員会が何かケシカランと思って、具体的に関係行政機関の長に勧告、措置要求をしようとすると、それはすべて内閣総理大臣にやってもらわなくてはならないということです。これが面倒臭いのです。お役所の常識として、総理名で何か文書を出すという行為は(仮にそれが内閣府の大臣としての内閣総理大臣であっても)とても重いことです。消費者庁の組織の中に、「この程度の事を総理名で言わせるのはちょっと如何か?」という内向きの配慮から、関係行政機関へのアプローチが弱くなることはないのか、ということを懸念しました。松原大臣から「最終的には総理から話が落ちてくるという、むしろ重みのあるプロセスだと理解してほしい」という答弁がありました。きっとそうなのでしょう。伝家の宝刀と位置づけるということなのでしょう(ただ、本心を言えば、内閣府の主任の大臣からの勧告が伝家の宝刀化することには違和感がありますが・・・。)。


 というのも、消費者安全法の既存の規定で注意喚起(第十五条)とか、措置要求(第十六条)というものがあり、勿論、これらも内閣総理大臣から発せられるものなのですが、注意喚起はこれまでに9回、措置要求については例がないのです。そういうこれまでのレコードを見聞きすると、ちょっと心配になるわけです。


 まあ、ゴチャゴチャ書きましたけど、「戦う安全調査委員会、戦う消費者庁であってほしいし、関係省庁や事業者がケシカランことがあればどんどん主任の大臣(内閣総理大臣)から勧告や措置要求を打ってほしい」という思いだけです。