大陸棚限界委員会の勧告について、「沖ノ鳥島を基点とすることが認められた」といった主張を外務省がしているので、本当かなと思っていました。先日、勧告の要約が出たのでそれについて論評してみたいと思います。なお、委員会の勧告要約はコレ です。


 どうしても、注目は九州パラオ海嶺(沖ノ鳥島の南部からパラオに向かう延伸部分)のところに行きますが、そこは簡単に言うとパラ20において「中韓が検討に反対しているので、この延伸部分については、中韓の口上書で言及のあった事項(沖ノ鳥島の法的ステータス)に関する問題が解決されるまで勧告をしないことにした」ということになっています。多分、中韓から出ている委員はこの辺りを見て安心したのでしょう。


 このパラ20では「九州パラオ海嶺については判断をしない」ということであって、決して「沖ノ鳥島の法的ステータスについて判断しない」ということは書いてありません。ここが実は後で日本の論拠を補強する材料になってきます。マイナーな事のように見えるかもしれませんが、ここはとても重要なポイントです。あとで再言及します。


 しかしながら、パラ20においては、中韓からの口上書で言及のあった事項(沖ノ鳥島)法的ステータスは解決を要するものであるということも含意されています。ここはむしろ中韓の論拠を補強する要因です。少なくとも何らかの解決を要する「事項(matters)」があるということですから。ただし、限界委員会が「紛争(dispute)」という言葉を使っていないことには、日本への強い配慮を感じます。


 そして、本件の鍵はパラ158です。これは四国海盆に関する場所です。こう書いてあります。


The submerged prolongation of the land mass of Japan in this region extends from the land territories on the Izu-Ogasawara Arc to the east and the Daito Ridge and the Kyushu-Palau Ridge in the West. In this regard, Japan refers explicitly to the following land territories: islands on the Shichito-Io To Ridge, such as Tori-Shima island in the Eastern SKB region; and in the Western SKB region, Kita-Daito Shima and Minami-Daito Shima Islands on the Daito-Ridge, Oki-Daito Shima Island on the Oki-Daito Ridge and Oki-no-Tori Shima Island on the Kyushu-Palau Ridge (Figure 21)


 まず、このパラの前に表題として「2. Submerged Prolongation of the land mass and entitlement to the continental shelf beyond 200 M」となっています。これはすべての延伸の検討において「国土のどの部分を根拠に200カイリ以上の延伸が認められるのか」ということが述べられる部分です。他の延伸部分の検討の同じ表題の部分において、そういう文脈である以上、この四国海盆のパラ158もそう扱われるべきものです。マイナーな事のように見えるかもしれませんが、ここも意外に日本にとって重要なポイントです。


 そして、一番の肝ですが、第一文を沖ノ鳥島だけにフォーカスを当ててみると、「The submerged prolongation of the land mass of Japan in this region extends from the land territor(ies) on the Kyushu-Palau Ridge in the West.」ということになります。この海盆の西部では、九州パラオ海嶺上にある陸の領土から海底に大陸棚がずっと続いているという趣旨の内容です。この九州パラオ海嶺上にある「land territory」とは実は沖ノ鳥島しかありません。ここが一番のポイントです。しかも、これが上記のように「2. Submerged Prolongation of the land mass and entitlement to the continental shelf beyond 200 M」という項目の所で書かれているというのも大切です。


 こういうふうに言うと、中韓は「勧告は単に沖ノ鳥島を領土(land territory)だと言っているだけじゃないか。自分達は領土であることは否定していない。領土ではあるけども、大陸棚を持つことができる『島』ではないという主張は引き続き有効である。」と言うと思います。ただし、大陸棚の延伸を考える基礎となる陸塊(land mass)の延長(prolongation)が沖ノ鳥島という領土から伸びているというのは、沖ノ鳥島が大陸棚を持てる「島」であるという前提がない限りは出てきえないものです。


 多分、中韓の委員は幾つかの事を見落としたのだと思います。まず、「extends from the land territories on」という部分から「the Kyushu-Palau Ridge」までの間にあれこれと文言が入っているためにピンと来なかったのでしょう。そして、第二文目はたしかに一番最後に沖ノ鳥島について言及がありますが、最初が「Japan refers explicitly to」なので、「日本の主張を書いただけで、勧告の効力的には何らの意味もない」と踏んだのだと思います。あと、上記でも書きましたが、これが四国海盆の部分での記述なので注意力が下がったということもあると思います。しかしながら、限界委員会は「九州パラオ海嶺については判断しない」としているだけで、別に「沖ノ鳥島が基点であるかどうかについて判断しない」とは言っていないのです。つまり、限界委員会は英語の文章のストラクチャーを上手く駆使しながら、中韓のこれまでの主張をかいくぐるかたちで、日本の主張に優しく手を差し伸べてくれたと言っていいと思います。


 なお、四国海盆に延伸が認められるかどうかの検討では、沖ノ鳥島からの検討はしていません。基点足り得ることまでは間接的に記述しましたが、さすがにそこまでやるとバレるのであくまでもそれ以外の小笠原諸島や沖大東島からの検討のみで四国海盆への延伸を満額認めています。これについて、中韓はあれこれ言うでしょうが、日本としては「あえて沖ノ鳥島からの検討をしなくても足りたからやらなかっただけ。沖ノ鳥島が基点であることはパラ158の記述からして否定しようがない」とだけ言っておけばいいでしょう。


 かなり間接的ですが、沖ノ鳥島が大陸棚の基点となっていることは明確になっているように思います。「口上書で言及のある事項」が解決されるまでは九州パラオ海嶺については検討しないという部分くらいしか、中韓のとっかかりは残っていません(嫌な部分ですが)。延伸の話はずっとチャレンジし続ければいいとして、今後は最低限沖ノ鳥島を基点とする200カイリの大陸棚については権原の強化を図っていく必要があります。


 中韓は「九州パラオ海嶺については延伸が認められなかった」ことを以て、日本の主張は否定されたと言っていますが、今回、日本が言っているのはそういうことではなくて、「九州パラオ海嶺を主張する根拠となるであろう沖ノ鳥島が大陸棚を持つことのできる島であることが立証された」ということです。この部分はあまり競い合えないので、中韓は議論を噛み合わせないようにして、今回成立していない部分だけを大きく取り上げているのだと思います。だからこそ、今は外交戦が必要です。すべての在外公館はきちんとこの点を詳しく説明するオペレーションをやるべきです。


 書いてみて、少し論の荒いところがありますが、これを突き詰めようとするとこの紙幅の数倍が必要になります。それはご容赦ください。