フランスの国民議会議員選挙で、極右国民戦線が数議席取れるのではないかという観測が上がってきています。世論調査段階では必ずしも明らかではありませんが、可能性がゼロではないだろうと思っています。


 あの国では国民戦線から35人の国民議会議員が誕生したことがあります。1986年の総選挙で負けることを見越したミッテラン大統領は、それまでの小選挙区二回投票制から比例代表制に選挙制度を切り替えました。自派の社会党の敗北の度合いを押さえたいとの思惑からであり、たしかにそれはある程度成功しました(それでも多数は失い、政権は保革共存になりましたが)。ただし、比例代表の導入は副作用が大きく、国民戦線から35名もの国民議会議員が生まれてしまいました。勿論、保革共存政権のシラク首相はすぐに選挙制度を従来の小選挙区二回投票制に戻しています。


(注:比例代表制というのは多数の小政党が生まれる制度ですから、運用の仕方を間違えると変なことになります。更には、最近日本で取りざたされている連用制は導入の仕方次第では「えっ?」と思うような政党でも国会に一議席持てるようになってしまうということは留意しなくてはなりません。)


 その後は殆ど国民戦線からの国民議会議員はなかったのですが(当選後、選挙違反で当選取り消しのケースあり)、今回はマリーヌ・ルペンが大統領選挙で17.9%という非常に好成績でしたからこれまでとは違います。ちょっと勢いを感じます。2007年の大統領選挙で父ジャン・マリー・ルペンがあまり冴えず、その後党勢が退潮気味になり、資金集めにも苦労してきただけに「1議席でいいから」の思いは強いでしょう。


 上記の通り、あの国は小選挙区二回投票制ですから、第一回投票で一定の得票数を取った候補だけが第二回投票に臨みます。第二回目は普通は2名のことが多いですけども、3名になることもあります。この制度だと、右派、左派の色分けが非常にやりやすくて、かつては共産党+社会党、中道+右派で大まかなグルーピングが出来ていて、1回目はすべての勢力がガチンコするけども、2回目については残った候補を同じグループの残れなかった候補が推すという感じでした。したがって、この制度では単独で戦わなくてはならない国民戦線は、第二回には結構残れても最終的に勝てることはないということを繰り返してきました。しかし、今回、この制度の下でも議席が取れそうな地域がありそうだということです。つまり、第二回投票で50%を超える得票をできる選挙区がありうるということです。多分、北東部か南東部の県でしょう。


 まあ、他政党の本来のあるべき姿は「第二回で国民戦線が残る場合は、どういう状況であろうと国民戦線でない政党の候補を皆で押す」ということです。どうも、今回劣勢が伝えられ、心理的に余裕のない右派勢力はこの方針で纏まりきっていないような感があります。もしかしたら、国民戦線と握って勝ち上がりたいと思っている候補者もいるでしょう。そこはマリーヌ・ルペンも上手くて、これまで一切やっていなかった「候補者次第では政党を問わず、推すことも考える」みたいな秋波を送っています。


 こうやって、極右勢力がフランス政界の中に当たり前の存在として入ってくるのですかね。私はとても怖いものを感じます。憎悪をベースにした政治は本当に怖いものがあります。日本という国では、いわゆる「極右」という存在が非常に特殊なかたちでしか現れていないので、国民戦線的な脅威を感じることはまだありません。ただ、こんなのはパブリシティさえ上手くやれば、日本でも一定の伸長を見ることは可能だろうと思うのです。逆に言うと、何で日本の極右というのはああいう人に受け入れられないやり方でしか活動しないのかが不思議なくらいです。


 なお、上記に書いたことと逆説的ですが、極右勢力の力を削ぐ一番いい方法は「政権内に入れる」ということだと私は思っています。オーストリア自由党(極右)は、シュッセル政権に入ってからすっかりダメになりました。フランス共産党もミッテラン政権に入って以来、30年ずっと党勢を損なってきています。こういう極端なことと言う政党は政権に入れてしまうと「意外に大したことない」ということになって窄み気味になっていきます。日本でも今、威勢のいい方々は政権に入れてみるといいのですね、本当は。時折、自民党の方から「政権与党の苦労が分かったか」と言われます。


 ということで、フランス国民議会議員選挙については、社会党の勝利、共産党を含む最左派勢力の入閣、国民戦線の伸長(議席獲得の可否はともかくとして)、右派内でのサルコジ疎外(というか悪者化)、右派UMPの分裂傾向(フィヨン前首相とコペUMP事務総長の主導権争い)くらいまでは、今からでも予測可能です。さて、その後ですが、いつまでオランド政権が今の(財政健全化を脇に置いた)成長路線で押せるかですけど、私は1年くらいしたら隘路に嵌まるとみています。