フランス大統領選挙決選投票が大詰めです。ちょっと大胆にこれからの動きを予想してみたいと思います。
(注:なお、フランス大統領選挙の仕組みは日本とちょっと違うので分かりにくいです。まず大統領選挙は二回制でして、第一回投票で上位二位に残った者が第二回投票で決選投票に臨みます。第一回である程度票を取ったけど決選投票に残れなかった候補の票をどう取り込むかの合従連衡がとても重要になる制度です。今回で言えば投票総数の18%を取った極右マリーヌ・ルペン、11%を取った社会党左派+共産党を主体とするジャン・リュック・メランション、9%を取った中道のフランソワ・バイルーがそれに当ります。)
恐らくは社会党のフランソワ・オランドが勝つでしょう。オランドはメランションを含む左派系の支持を固めきっている一方で、ニコラ・サルコジは極右のルペンや中道バイルーの支持を得ていません。結構な差がつくのではないかと見ています。フランソワ・ミッテラン大統領が退陣したのが1995年、保革共存(1997-2002)で社会党が首相ポストを握った時代はあったものの、本格的な左派政権は17年ぶりになります。
(注:フランスでは大統領と首相が併存します。大統領は国民から選ばれます。首相は大統領から任命され、議会の信任を受けなくてはなりません。大統領と首相が同じ党から出ている時は大統領が圧倒的な力をもちますが、大統領と議会多数派が異なる党となる場合は、大統領は議会多数派から首相を任命します。これをコアビタシォン(保革共存)と言います。この時は大統領は、自分の味方でない首相と閣僚に囲まれて針のムシロ状態になります。これまで1986-88、1993-1995、1997-2002の3回保革共存がありました。)
今後の動きについては、1981年のミッテラン大統領誕生の時とのアナロジーがかなり適用できるのではないかと思います。ミッテラン大統領は共産党を含む左派の支持を固めて、現職のヴァレリー・ジスカールデスタンに僅差で勝利しました。この時の話について、一番よく書けている日本語の本は実はこれ です。この方、出世作はこの本です。1980年前後のフランス政治を見る上ではとても面白いです。以前、ご本人にそんな話をしたらとても喜んでおられました(ちなみに我が街北九州出身の方なんです)。
オランドが勝つと、恐らく左派系にも配慮できる首相を任命するでしょう。というのも、今回の大統領選挙第一回投票でかなり健闘したジャン・リュック・メランションの党派(共産党も加わっている)が相当に強い影響力を及ぼすと思われるからです。ミッテラン大統領が、左派の強いリール市長であったピエール・モーロワ首相を任命したのと同じです。モーロワ内閣には共産党からも入閣して、そこで打ち出した政策は時短、有給休暇の充実、企業国有化、財産課税、消費による経済再建・・・といった非常に左派色の強いものでした(別途、死刑廃止、地方分権とかもありました)。ちなみに私はフランス滞在中はリール市に住んでおりまして、政策論を一旦脇において、モーロワというと「おらが街の市長」という思いを今でも持っています。
そして、今回については、大統領選挙で公約しているとおり、オランドは財政緊縮政策を一部なりとも放棄した政策に出るはずです。大統領選挙を見ていると、オランドは聞いていてヒヤヒヤするくらい財政緊縮に否定的な見解を展開しています。恐らくはメランションの勢力を相当に意識しているはずです。ドイツとの関係はギクシャクするでしょうし、ユーロは売りを浴びせられる可能性が非常に高いです(モーロワ内閣の時もフラン切り下げを余儀なくされた)。評論家的になってしまうのは本意ではありませんが、こういう外的要因でユーロは下げ基調に入っていき、円高に振れるのではないかと危惧しています。もっと言うと、マーケットはそのあたりを織り込むでしょうから、オランド当選の段階でユーロは下げ含みになることはほぼ確実です。
しかし、1980年代前半ですらフランスのこういった一国中心主義が上手くいくはずもありません。インフレと失業が同時に起こるスタグフレーションの局面に入ります。モーロワ首相はどんどん隘路に追い詰められていきます。私はオランド政権にも同じことが起きると思います。最初は左派色の強い首相で財政拡大に入っていくものの、多分上手くいかないでしょうし、結果としてユーロ自体が支えられなくなっていくでしょう。
結局、1983年の春にはミッテラン大統領とモーロワ首相は内閣改造をして、当時のジャック・ドロール財政相の主導の下、財政緊縮路線に転じます。ミッテラン当選からここまでで2年です。それから1年後の1984年夏、教育改革失敗を契機にモーロワ首相は退陣、若いローラン・ファビウスが首相になります。ファビウス内閣にはもはや共産党の姿はありませんでした。ちなみにフランスで極右国民戦線が強くなり始めたのはこの頃からです。
今回、世界経済のグローバル化等も考慮に入れれば、オランド大統領の左派色の強い経済運営が2年持つかどうかは疑問です。左派色の強い首相が頑張ってはみるものの上手く行かずに、結果として内閣改造か首相交代を早晩迫られ、経済政策も大転換することが求められるでしょう。そして、その時にはメランションを支持する勢力は閣外に出ると思います。
しかし、今回、サルコジは難しい立場ですね。反財政緊縮や反欧州で左派からも右派からも攻め立てられる状況です。十八番の反移民政策を打ち出しても、もはや極右国民戦線は乗ってきていません。右見ても、左見ても、どちらからもダメ出しをされる厳しい状況です。あえて言えば、これまでの政権運営の中でちょっと敵を作りすぎたかなという感じがしないわけでもありません。
非常にマクロな読みですが、私は大体こんな感じになると見ています。さて、2年後、このエントリーを見直してどうなっているかが楽しみではあります。