非常に古い文書ですけども、外務省のサイトに「我が国のFTA戦略」 というものがあります。10年くらい前のものです。当時、私は外務省経済局でWTOを担当していました。責任逃れをするわけではありませんけども、この文書は私が作成したものではありません。


 あまり裏話をしてはいけませんけども、この文書は外務省単体で作成したものであり、いわゆる各省協議を一切やっていません。なので、比較的自由な筆致で書かれていると言っていいでしょう。各省協議をしなかったため、発表後はそれなりにゴタゴタしましたが、もう10年前ですから「思い出」の部類に入ってきます。


 今となって読み直してみると、WTOドーハラウンド交渉が進んでいた時期ですから、WTOとFTAの両立というところからスタートしていたり、日メキシコの交渉をしようとしていた時期であるとか、まだ韓国のFTA戦略がそれ程如実な結果を収めていなかったとか、日米FTAや日EUFTAが現実的なものと認識されていなかったとか、まあ、現在との違い、感覚のずれというのはそれなりにあります。


 ただ、今、TPPが出てきて、日中韓、日EU、日豪といった可能性もある中、一度、この類の戦略論を組みなおした方がいいでしょう。5W1Hを明確にした今後の経済連携戦略をどう講じていくかがないから、何となく暗中模索で不透明感があるのです。特に「いつ」、「誰と」、「何を目的として」、「どうやって」交渉に臨んでいくかをある程度持っておかなくてはなりません。私はその中でも順序論というのがとても大事だと思っています。こういうのは泥縄式にやってはいけないのです。また、上記の戦略の中には勿論、国内の対策も入ってきます。


 ともすれば、最近は日本には粗製濫造型経済連携が横行していて、事実上、農林水産業を除外した経済連携協定が出てきています。最近、ある経済連携協定の説明を受けた際、「日本が農林水産品で新規に関税撤廃にコミットしたものは何ですか」と聞いたら、「盆栽です」と返事があったものがありました。つまり、「農林水産業に影響がないものだけをやる」といったところが数少ないクライテリアになっているような気がしないわけでもありません。その結果として、日本として取りたいものが取れないということになるわけです。


 「TPPも、日EUも、日豪も、日中韓もすべて大事。バランスを取りながらやっていきたい。」、こういうのは戦略とは言いません。取捨選択した形跡のない総花的なものでなく、少しエッジの効いたものを打ち出さないと日本は負けてしまいます。韓国は多分「うちの産業には日本と競合するものが多い。日本がボケっとしている間に有力な市場を押さえに行こう」という感じのことが戦略の中に入っていたと思います。それを実現してきたその力量はあっぱれだと思います。


 さて、「どうやったらいいのかな?」と思っています。