最近、行政改革関係で既存の法律の中で使えるツールってないのかなという問題意識から、色々な役所の権限を調べてます。なかなか、日本の法律というのは色々な特徴がありまして、その一つに「世の中の森羅万象はすべて切り分けることが出来、役所の権限関係には重複は一切存在しない。」ということになっています。その中で権限関係を見極めていくのは結構面倒くさいのです。法律を作ろうとすると、結構、時間がかかるのは各省との権限調整です。


 そんな中、行政改革という視点から見た時に、幾つか「これは使えるのではないか」という条項を見つけました。列挙してみたいと思います。ただし、内容は基本的にすべて同じですので最初のものだけを見ていただければ、あとは斜め読みでも結構です。


【内閣府設置法第十二条】
 特命担当大臣は、その掌理する第四条第一項及び第二項に規定する事務の遂行のため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、必要な資料の提出及び説明を求めることができる。
2 特命担当大臣は、その掌理する第四条第一項及び第二項に規定する事務の遂行のため特に必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、勧告することができる。
3 特命担当大臣は、前項の規定により関係行政機関の長に対し勧告したときは、当該関係行政機関の長に対し、その勧告に基づいてとった措置について報告を求めることができる。
4 特命担当大臣は、第二項の規定により勧告した事項に関し特に必要があると認めるときは、内閣総理大臣に対し、当該事項について内閣法第六条の規定による措置がとられるよう意見を具申することができる。


【総務省設置法第六条】
 総務大臣は、総務省の所掌事務のうち、第四条第十号及び第十八号に掲げる事務について必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し勧告をすることができる。
2 総務大臣は、第四条第十八号の規定による評価又は監視(以下この条において「評価又は監視」という。)を行うため必要な範囲において、各行政機関の長に対し資料の提出及び説明を求め、又は各行政機関の業務について実地に調査することができる。
3 総務大臣は、評価又は監視に関連して、第四条第十九号に規定する業務について、書面により又は実地に調査することができる。この場合において、調査を受けるものは、その調査を拒んではならない。
4 総務大臣は、評価又は監視の目的を達成するために必要な最小限度において、第四条第二十号に規定する地方公共団体の業務について、書面により又は実地に調査することができる。この場合においては、あらかじめ、関係する地方公共団体の意見を聴くものとする。
5 総務大臣は、評価又は監視の実施上の必要により、公私の団体その他の関係者に対し、必要な資料の提出に関し、協力を求めることができる。
6 総務大臣は、評価又は監視の結果関係行政機関の長に対し勧告をしたときは、当該行政機関の長に対し、その勧告に基づいてとった措置について報告を求めることができる。
7 総務大臣は、評価又は監視の結果行政運営の改善を図るため特に必要があると認めるときは、内閣総理大臣に対し、当該行政運営の改善について内閣法(昭和二十二年法律第五号)第六条の規定による措置がとられるよう意見を具申するものとする。
8 総務大臣は、評価又は監視の結果綱紀を維持するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、これに関し意見を述べることができる。


 一番最初のものが、内閣府特命担当大臣によるものです。行政刷新担当相はこの範疇に入ってきます。二番目は総務大臣が行う行政評価、行政監視に関わるものです。総務大臣については、別の法律で、各役所が行う政策評価に対するメタ評価(評価の評価)に関しても似たような権限を持っています。


 非常に簡単にまとめると、行政改革関係や行政評価、行政監視で何か問題があると思ったらまずは資料を出せと言える、それでもダメなら勧告をすることができる、勧告の結果がどう実行されたかを各役所から報告するよう求めることができる、それでもダメなら伝家の宝刀たる内閣法第六条の発動に向けて意見具申することができる、ということです。


 ここで言う内閣法第六条とは以下のようなものです。


【内閣法第六条】
 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。


 つまりは、総理大臣から「勧告されたものがきちんと実施されていないみたいだから、きちんとやれ」と言ってもらうよう意見具申することが内閣府特命担当大臣、総務大臣にはあるということです。


 これは相当に大きな権限です。国務大臣間で資料請求→勧告→報告のプロセスを求めることが出来て、それでも満足できないのならば、総理に「ちょっと総理から一発ガツンと言ってやってください」と正式に意見を具申できるということですから、矢面に立たされる側の各役所からすると相当に怖いでしょう。


 しかしながら、この総理への意見具申権限、一度も発動されたことがありません。私は内閣府と工面担当大臣、総務大臣はこの権限をもっともっと活用すべきだと思います。いい加減なことをやっている役所を見つけたら、片っ端からこのプロセスに乗せていくことをやればいいと思います。何回か実例を作れば、今度は各役所側が権限の発動を恐れて、自分で身綺麗にするようになるでしょう。


 行政改革というのは、法制度の整備、体制の整備が大切なところがあります。それと同時に「使えるツールは何でも使う」ということも必要です。結局、法が整っても最後は「人」でありまして、その時々の行政機関の長がどれだけ権限関係を知悉して、喧嘩覚悟でタマを打ち込んでいく気概を持っているか次第です。


 この部分は役所に任せておくと、「やり過ぎて人間関係を害してもいけない」という配慮が働きます。だから、発動が一度もないのだと思います。政治主導というのは、こういうところで最後に政治家が引き取って、「自分の名前でガツンとやってやる」という気概を持つことなんだろうなと思います。まあ、あまりやり過ぎてもいけないのでしょうから、あくまでも「伝家の宝刀」ではありますが。