猫ひろしさんのオリンピックへの挑戦がとても注目されています。カンボジア国籍を取得してのチャレンジ、色々な意見がありますが、私は個人の選択として尊重されていいと思います。


 世界を見てみると、既に国籍を変えてのチャレンジというのはよくあることでして、あまり注目されませんが、フィギュアスケートで川口悠子さんがロシア国籍を取得して、バンクーバー・オリンピックに出ています。サッカーの世界でも、国籍を変えて中東諸国の国民として活躍しておられる方がたくさんいます。日本では三都主アレサンドロ、田中マルクス闘莉王、ハーフナー・マイクといったケースがあります。国籍というものの重みを理解した上で、新しい国の人間として頑張ることは決して奇異なことではありません。


 ちょっと話題がそれますが、かつて、国籍を変えてオリンピックにチャレンジした有名なケースとして、トルコの重量挙げの英雄、スレイマンオールがいます。彼は元々ブルガリアでトルコ系住民として生まれましたが、氏名をブルガリア風に変えることを要求される等の経緯があり、最終的にはトルコに亡命しました。既に世界的に有名な選手であったスレイマンオールが、1988年のソウルオリンピックに出る際、出生地のブルガリアは100万ドルを要求し、トルコはそれを支払ったうえで、スレイマンオールはオリンピックに出て優勝。バルセロナ、アトランタでも金でした。ソウルの金の時は映像を見ていても感動的でした。非常に身長の低い選手でしたけど、それはそれは雄々しい重量挙げ選手でした。国籍とオリンピックということで言うと、いつも私はスレイマンオールを思い出します。


 ただし、国籍を変えるということは、日本のように二重国籍を認めていない国では「日本人でなくなる」ということを意味します。パスポートはカンボジア旅券になります。日本にこれまでのように滞在する際は「在留認定証明書」を取らなくてはなりません。この日本人でなくなるという点は厳然たる事実として受け入れなくてはなりません。猫ひろしさんは既に日本人ではなく、国家元首として戴くのは天皇陛下ではなくシハモニ国王であり、国歌も君が代ではなく、カンボジア国歌になります。国籍というのはそういうものです。


 また、猫ひろしさんにはオリンピック後もカンボジア人として祖国のために頑張ってもらいたいと思います。くれぐれもオリンピック後に帰化の要件が揃ったら再度日本人に帰化するということだけは止めてほしいし、そういう帰化を法務省は認めるべきではないでしょう。


 そもそも論として、私は二重国籍を全否定する今の日本の制度が本当に良いのかということについては、若干の疑問がありますけども、それはまた別のテーマですので後日思いを巡らせてみたいと思います。