財務金融委員会で質問した直後に豚肉の差額関税制度を悪用した脱税事件が出てきました。金額も億単位で大きいです。あまりのタイミングの良さに苦笑してしまいました。制度についてはココ を見てください。


 どう考えても、この関税制度は脱税したくなるのです。何度となく書いていますが、(法制度を前提とせず)合理的に動く限りにおいて必ずそうなります。どんなに価格努力をしても、一定の部分まで全部関税で持って行かれるのですから、輸出や輸入の段階で価格を高く申告して、実際の価格との間をポケットに入れる誘因はかなり大きいです。毎年、残念なくらい脱税が起きていることがそれを証明しています。


 ただし、これを改革しようとするとちょっと厄介なのも事実です。この豚肉の差額関税制度はWTOで譲許しているので、仮に税の体系を変えようとすると現在の譲許税率を超える部分が出てくる可能性が高いため、基本的には条約改正交渉が必要となります(基本的にと書いたのは、譲許の範囲内で税率をいじるのであれば大丈夫でしょうが、それは事実上不可能なので。)。もっと簡単に言うと、本来WTOは自由化に向かっているにも関わらず、今の譲許より税率が高くなる部分が出てくるということであれば、その自由化の動きに反するため、関係する国々と交渉しなくてはならないというくらいの感じです。


 実は豚肉の税率をいじるだけで、国際条約の改正になるのです。そして、それは日本のルールでは国会承認条約です。つまり、豚肉の差額関税制度を止めるという非常に特定のイシューでも、諸外国と改正交渉を行わなくてはならず、かつ、それを国会審議にかけなくてはならないのです。もっと言えば、幾つかのFTA(例:対メキシコFTA)でもこの制度を前提とした譲許をやっているので、日メキシコFTAについても改正交渉の上、国会の承認を求める必要があります(たしか、日チリFTAも同様ではなかったかと記憶しています。)。


 そうすると、豚肉の制度を変更するだけで条約を数本改正しなくてはならなくなります。それに対応する国内法がくっついてきます。結構面倒なのですね。これをかつてやったのが、コメの制度でした。1995年のWTO協定発効時には関税化しなかったのを、1999年に関税化しましたが、これは条約改正交渉と国会審議を丁寧にやっています。


 私のイメージは単純な従価税に置き換えるのがいいように思います。今の豚肉の輸入の平均的な価格を算定して、それで支払っている関税分を従価税とするのが一番スタンダードなやり方です。ただし、これだとうまく行かないところがあるのです。というのも、高級豚肉の部分は差額関税ではなくて、単純な従価税が4.3%なので、そことうまく繋げないといけなくなります。例えば、上記のやり方で差額関税制度部分の税率を30%程度の従価税に置き換えたとします。それだと高級豚肉のところは大幅増税になります。それは上手くないでしょうし、恐らく関係諸国との調整も上手く行かないでしょう。特にメキシコとのFTAではこの高級豚肉の部分のみを譲歩しているので、仮にメキシコとのFTAの税率を維持するとすれば、それ以外の国の豚肉との競争条件が開きすぎるという弊があります(FTAというのはそういうものだといえばそうなんですが。)。このあたりは関係業界ともよく話す必要があります。


 コメほどの労力を使って、条約改正交渉をやるかどうかということはあるのかもしれませんが、この状態でどんなに脱税しないでねとパンフ を作って配布しても馬耳東風でしょう。これまでは「ドーハラウンド交渉が纏まった時に合わせて改正」と言っていました。たしかに、それだと一気にやれます。ただ、ドーハラウンド交渉は動いていません。もうそういう言い訳もできなくなってきています。


 そろそろ潮時じゃないかなと思います、この制度は。