高校の先輩が書かれた「国・企業・メディアが決して語らないサイバー戦争の真実」 という本を頂き、読みました


 色々なことを考えたのですが、自分の関係で一番最初に思ったことは「日本は外国からのサイバー攻撃に対して、それを守り撃退するためのツールを十分に備えているだろうか。」ということでした。アメリカは陸海空+宇宙に加えて、サイバー空間での戦いを第五の戦争ということで形容しています。


 日本がその考え方に乗るかどうかはともかくとして、単に「守り」だけに徹するというのは、陸戦で言うと「城壁を充実させて守る」ということですが、今、日本の自衛隊の専守防衛でも一定の実力部隊を持つことが認められていることとのパラレルで、サイバー空間における「実力部隊」を持つことは、日本においてどう観念されているのだろうかということを考えました。


 もっと簡単に言えば、「憲法や各種法律との関係でサイバー空間において自衛権は認められるのか。」という問題意識に言い換えることもできます。サイバー攻撃の結果として、都市の機能が著しく減退する、国民の身体・生命に大きく関わるところがある、そして、それが特定の国家やそれに類する集団によって行われている時、日本はどの程度のことが法制度上はできるのだろうかということを考えました(勿論、法制度上であって、それには「実力部隊」が伴わないと意味がないのですが、まずは頭の体操として。)。


 ということで、国会質疑や質問主意書の検索システムで「サイバー」と「自衛権」で検索してみました。結論から言うと、殆ど出てきませんでした。それっぽいやり取りというのは以下の1件くらいです。


【平成14年05月29日第154回衆議院武力攻撃事態対処特別委員会】
○前原委員(略)サイバーテロ、サイバーウオーがあって、金融とか電力、水道、交通などの経済活動が壊滅的な打撃を受けて、それがある国のしわざであるということがわかった、また、それによって交通事故やあるいはいろいろな問題で死傷者がたくさん出ている、つまりは、極めて日本に対してのダメージが与えられている、この場合は武力攻撃事態と認定されるんですか、どうなんですか。


○福田国務大臣 ある事態が武力攻撃事態に該当するか否か、あるいは自衛権を発動し得るか否かということは、個別具体的な状況を踏まえて判断すべきものでありまして、今のような仮定の問題について断定的に申し上げるのは、これは適当ではないと思います。
 したがいまして、一般論として申し上げますけれども、サイバー攻撃のようなものが武力の行使に当たるか否かについて、現状は、その法的性格について国際的には定説がありません。このため、これが武力攻撃事態に該当するかどうかは、現段階で確たることを申し上げることは困難であります。このように、我が国に対する武力攻撃であると認定できなければ、自衛権発動の三要件は満たされないため、自衛権を発動することはできない、こういうことになります。


○前原委員 今の御答弁ですと、今私が申し上げたような事態においては、武力攻撃事態と認定され得ない、こういうことですね。ということは、法の不備じゃないですか。
 つまりは、今後、テロ、ゲリラ、そういうものに対しての対処というものを考えていかれるということでありますが、ある国が組織的にサイバーテロ、今はサイバーウオーと言ってもいいかもしれない、その場合は武力攻撃事態ではないかもしれないけれども、しかし、多大な人的、経済的なロス、損失が起きているということについて武力攻撃事態には認定され得ないというのは、私は法的な不備だと思いますよ。
 そのことについてどうカバーしていくのか、その点について御答弁いただきたいと思います。


○福田国務大臣 その規模にもよるわけでありますけれども、例えばサイバーテロとかいろいろなインフラを攻撃されるとかいうようなテロですね。これは、現状では現行法で対応するということしかないわけですね。現行法で対応します、そういうこと。そしてまた、それが委員のおっしゃるような場合には、これからの法整備を行うということについて、これは二十四条に規定をしているところでございます。


○前原委員 テロ、ゲリラというのは有事に至るまでということでありますが、これだけインターネット等いわゆる情報通信社会になった以上、単に弾が飛んでくるとかいうことだけがテロあるいは戦争じゃないわけですよね。そういう観点からすると、今後整備をされるということでありますが、この点については極めて旧式の法律になっているんじゃないですか、この法律というのは。その点しっかりとぜひ議論をしていただきたいというふうに私は思いますし、その点についての有事法制の中での取り扱いというものも私は政府に求めていきたいと思いますが、その点について御答弁ください。


○福田国務大臣 サイバーテロのようなものについては、これは極めて可能性の高い部分であるということは、我が国においてもそういう懸念を持っておりまして、それに対応する方策はいろいろと政府内でも検討いたしておるところでございます。
 先ほど申しましたように、この法案に規定されない緊急事態対処のための措置ということで、今後このことについて、国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態への対処、これは、迅速かつ的確に実施するための必要な施策を今後講じていく、こういうことで、今後鋭意検討させていただきたいと思います。
【引用終了】


 非常に良いやり取りをしていると思います。「武力攻撃」の「武力」というのは、「サイバー攻撃」のようなものを包含するのか、それに自衛権を発動することは出来るのか、という論点は、これまで国会の公の場で議論されてないみたいです。勿論、自衛権の議論が喧しかった時代には、この手の可能性がなかったわけですが、時代は変わっています。その時代の変遷に応じて、自衛権の概念そのものが変わることは大いに奨励されるべきことだろうと思います。ともかく、色々な議論があっていいと思いますけどね。


 実はこういうのを問い質すのに一番いいのが質問主意書(国会議員が正式に出す質問状。閣議を経て内閣総理大臣名で回答がある。)なのです。口頭であれこれ聞いても、よく要領を得ないことも多いので文書できちっと出して、内閣法制局の厳しい審査を経た後に文書で返ってくるというのがベストです。


 しかし、与党議員たるもの、質問主意書など出すべからずということで、現時点ではこのルートは私にはありません。別にこのテーマについて占有するつもりはないので、誰か野党の方で拾ってくれないかなと思ったりもします。