アメリカに行って思ったのは、「経済が悪い、悪いと言っても、なんだかんだで活気がある」ということです。日本との違いは、社会にカオスがあることです。社会全体に何とも言えないゴチャゴチャっとした感じがあって、その中に常にエネルギーが生み出されているということです。


 そのカオス感というのは、多分、私は多様なエスニシティから来ていると思います。どんな国の人間であろうともそれを包含して、また新たなアメリカの価値観を作っていく再生産のプロセスが最低限回っているように思いました。日本に帰ってくると、非常に「きちんとした感じ」がします。社会全体がとても纏まっているのです。その纏まり感はある意味心地がいいのですけども、逆にアメリカの得体のしれないエネルギーが羨ましいところがあります。勿論、闇の部分はありますし、今の「Occupy(占拠せよ)」の人達を見ていると貧富の差が広がっているなあと感じることは多かったですから、すべてを正当化するわけではありません。それでも、私は「日本はこれからもっと外に出て、逆に国内に多様なエスニシティを取り込んでいくべき。そこに日本の活路がある。」と感じました。


 今の日本はご都合主義的なところがあって、「有能な外国人には入ってきてほしい。だけど、自分達がどんどん外国でチャレンジするのは嫌。」みたいなところがあります。この手の外との出入というのは、大体帳尻があるようになっていて、こちらからの出がないのに、外国からの入もないということです。その観点からとても気になったのが、「海外に出ていく日本人の数が減った」ということです。ニューヨークでビックリしたのが、かつてであれば観光用ガイドにはちょっと間違いが多い日本語表記が当然見られたものですが、日本語での表記はなくなり、ハングルと中国語が代わりに入ってきていたことです。これは何を意味するかというと、「日本人の旅行客が減った」ということだと思います。ニューヨークだけではありません。あちこちで中国、韓国からの旅行者の数に驚くことがありました。旅行者がすべてではないかと思いますけれども、「出がないと入もない」という私のテーゼから行くと、このままだと日本は世界に取り残されていくのではないかと不安が増幅されました。


 「日本人が外に出ていき、外からどんどん入ってきてもらう」というのはとても争いのあるテーマで反対の方が多いことも知っています。珍しくここは私は楽観的です。「日本は歴史のある強い国。人の出入りくらいでその価値は損なわれない。だから、自信を持って外に開こう。」くらいの超楽観論でいます。


 ただ、アメリカという国の住みにくさも感じました。まずは医療。今回のオリエンテーションで一番笑ったのが、「病気が少々辛くても、生死にかかわる重篤な状態でない限りは集中治療室には絶対にいかないでください。1日放ったらかしにされますから。」ということでした。とてもではないですが、アメリカで病院に行こうとは思いませんでした(実際にご縁はありませんでしたけど)。この国の医療体制はひどいなあというのが非常に率直な感想です。私の議員会館の事務所にはよくアメリカの製薬会社の人が来ます。今回の経験を踏まえた私の感想は「よくあんな医療体制の国が、うちにあれこれと示唆しにくるものだ。」ということです。「こういうシステムがいい」、「日本のワクチン体制は発展途上だ」、大きなお世話だという感想になりました。無論、日本にも薬や医療機器の治験を早めるとかいった課題はありますが、それはうちの国内の話であって、外様からあれこれ言われる筋合いの話ではありません。ともかく、アメリカの医療体制は(断片的な経験でしかありませんけど)「関わらずに済むのならできるだけ関わりたくない」と思わせるに十分でした。


 あとはセキュリティの煩わしさですね。一言でいうと「ああ、この国は9.11以降、全く変わってしまったのだ」ということです。かつてのアメリカは国内線の飛行機なんてのは「バスに乗る感覚」でしたけど、今や国内線ですら搭乗前に1時間半近くのゆとりを見ないとダメになってしまいました。搭乗3時間前を要求していたイスラエルのベングリオン空港を思い出します。アメリカにせよ、イスラエルにせよ、テロを経験してセキュリティを強化せざるを得なくなってしまったら、もうセキュリティの水準を下げることはできません。何十年たっても、アメリカは超セキュリティ国家として歩まなくてはなりません。これから、この窮屈なセキュリティ社会で生きていかなくてはならないのかと、その背負った運命には強い思いをいたしました。


 基本的には「できれば飛行機には乗りたくない」と思わせるに十分な経験を何度かしました。棒で突かれ、荒い口調で「ほら、ベルト取って」と言われ、チェック後にベルト付けていたら「(邪魔だから)あっちでやれ」と追い払われと、まあ、空港、政府系建物等、一日に幾度となく愉快でない思いをしました。多分、私がワシントン在住でニューヨークに用事があるとしたら、私は飛行機に乗らないと思います。ただし、興味深かったのは、ある方が「(この制度を作った時の運輸長官である)ノーマン・ミネタ氏がサンフランシスコの空港で他の人と同様にセキュリティ・チェックを受けていた。」という話を聞いた時です。制度を作った人物だからこそ率先してセキュリティ・チェックを厭わない同氏の高潔な姿を聞いて、「自分もわがままを行ってはいかんな。」と、セキュリティについてブツブツ言っている自分をちょこっとだけ窘めました。