上院が強いとは知っていましたが、こんなに強いとは知りませんでした。知っている方からすると当たり前過ぎるくらいですが、下院議員と比べると、上院議員の方が格は上ですし、権限も上です。以前、書きましたがスタッフを雇用するために配分される額も上院では350万ドル前後、下院では200万ドル強ですから、自ずとスタッフの数も違います。イメージ的には上院議員は100人すべてが閣僚級といったところです。日本との対比で見ると、比較的同質性の高い日本の両院になぞらえることが難しいです。「参議院=上院、衆議院=下院」というカウンターパート関係ではありません。


 この上院議員、人口が少ないワイオミング、面積が小さいロードアイランド、デラウェアでも、人口が多いカリフォルニアでも州から2名です。これはこれでUnited Statesの理念を徹底的に突き詰めたもので、州は平等であるという理念に基づく素晴らしいことだと思います(私は日本の参議院も一票の格差を基準とせず、都道府県毎に同数の議席割り当てをするのも一案と思っています。)。ただ、結果として、人口割で議席配分をしている下院と比べると、「一票の格差」的視点からは人口の少ない州の過剰代表が上院にはあるということです。


 あと、アメリカの議員はとても年功序列ですね。これは日本以上です。かつて、日本でも「5-6期当選してくれば大臣」みたいなスタイルが批判されたことがありましたが、段々それが崩れてきています(最近の政権ではまた年功序列的人事が行われたりしていますが・・・)。アメリカは非常に分かりやすいです。期数を重ねて、理事(ranking member)→委員長ということです。日本と何が違うかというと、議会の委員長の権限が非常に大きいということです。委員長になると委員会の運営をすべて任せられますので、自分のお気に入り案件を一つ二つ通すことくらいは当然許容されます。日本でも委員長というのは格が高いのですけど、日本は(法令上は何らの設置根拠を持たない)国会対策委員会が非常に強い権限を持っているため、委員長が勝手気ままに議事日程、内容をコントロールできるわけではありません。ただ、委員長がその気になれば「制度上は」相当なことがやれるような気もしますけど、それをやると党内での立場が悪くなりますし、下手をすると国対から委員長職を挿げ替えられてしまいます。議院内閣制(内閣が議会の支持によって成り立ち、与党は内閣を支える立場にある)と大統領制(内閣と議会が切り離されている)の違いがこういうところにも出てきます。


 今、上院では日系のダニエル・イノウエ議員が議長代行(Pro Tempore)です。議長は副大統領なので、議員としては最高位にあります。アメリカ政治の序列的には4番目になります。そして、歳出委員長(Appropriations Committee)という、国の歳出を握る最も強力な委員会の委員長です。同議員はハワイが州になった直後の1962年からずっと連邦議会議員ですから、もう50年間ずっと国政に携わっていることになります(逆にそれくらいやらないと、超強力な歳出委員会の委員長にはなれないということなのでしょう。)。1924年生まれで87歳になるイノウエ議員が戦時中、強制収容所に入った経験を語りつつも、今、こうやって議員としての最高位であり、大統領に非常に近いところにいることがアメリカの民主主義なのかなとしみじみ感じました。


 一応、アメリカの議会にも院内総務(whip)が居ます。イギリスのように議院内閣制を取っている国であれば院内総務の役割はよく分かるのですが、大統領制である上に党議拘束がないアメリカみたいな国で院内総務の役割って何なんだろうと不思議になり、党内の取り纏めに携わった議員に「どうやって纏めるのですか?」と聞いたら、「そりゃ、長く疲れる作業さ。一昔前ならイヤーマーク(いわゆる箇所付け)をネタにアメとムチでやることもあったらしいけど、最近はそういうこともできないから、ひたすら説得作業だよ。実らないことも多いしね。」という答えでした。「イヤーマーク」を使いながら何らかの政治的な力を陰に陽に働かせることが今や難しくなっているというのは何処の国でも同じだよなと思いました。