サンディエゴの米海軍にて、病院船(hospital ship)を見に行きました。実は日本でも今年度の第三次補正で調査費がついた案件でして、実際どのようなものなのかというのを見たいと私が強く希望したものです。


 西海岸のサンディエゴにはMercy、東海岸のボルチモアにはComfortという2隻の病院船が今、あります。所属は海軍のMilitary Sealift Commandでありまして、これは兵站を担当する部局になります。そのうち、我々が見たMercyはT-AH19というものでして、つまりは19番目の病院船です(20番目がComfort)。現在、残っているのはこの2隻だけです。


 Mercyは元々はタンカー船だったものを、25年くらい前に2億ドルかけて医療機器を含むすべての整備を行っています。中で見ていても、船としてはちょっと古い感じがしました。なお、この改修についてはサンディエゴにあるNASSCOという会社がコンペをやった上で取ったと言っていました。


 この手の病院船は普段は使わないので、平時と運用時で関係する人員が大きく異なります。フルに運用する時(1000人の患者受け入れ時)は軍人(医務官を含む)1214名、民間の要員(Civilian Mariner)が67人必要となります。逆に平時のヒマな時は最低限の機能維持が目的ですので、軍人は59人、民間要員は12名でいいそうです。ここで不思議なのが、この病院船の操縦をするのは民間要員でありまして、軍人は一切の操縦をやらないということです。所有は海軍だけど、運航は民間ということで、米海軍の中でもちょっと特殊な位置付けの船でした。


 機能としては、戦闘時を含む外傷(trauma)の治療や人道支援が主たるものであり、様々な事態に応じて規模の拡大・縮小が可能です(flexible scalable health service)。これまで大きなオペレーションとしては湾岸戦争やインドネシアのバンダアチェーでの地震があり、また、パシフィック・パートナーシップという人道支援に2年に一度参加して世界各国で各種医療活動をやってきています。なお、日本の東日本大震災には行っておりません。想像するに、要請しても必要なタイミングに間に合わないと判断したのではないかと思います。


 能力としては、水を作る能力が1日に30万ガロンあります。また、患者をヘリに乗せて搬送するためのデッキも整備されています。ただ、スピードは遅く、時速17ノットでしか進めません。長さ894フィート、船腹106フィート、喫水33フィートとあります。ともかくデカい船です。喫水が33メートルのため、浅い場所、浅い港には入れず、ボート対応になります。endurance(航続距離?)は13420nm(カイリ?)となっていますが、ここはよく分かりませんでした。1マイル進むのに160ガロンの燃料が必要になるということです。


 今は港に停泊しており、あまり動いていません。求められているのは、命令が下ってから5日以内に人員、装備等を整えて出発することです。


 病院の能力としては、アメリカの普通の病院にある機能は概ね揃っているとのことです。X線は4部屋、CTスキャンもありましたし、放射線医学、歯科、眼科等、充実している印象を受けました。ベッド数は全体で1000床で、集中治療が80床、手術用ベッドが12床、回復期が20床・・・ということでした。


 運航している時は最低でも235人の軍人が必要であり、250床のベッドを使う時は730名、500床の時は942名、1000床の時は上記のとおり1214名の軍人が必要となります。2010年のパシフィック・パートナーシップ時は732人の軍人に加えて、官公庁関係者、NGO等が少し加わったということです。4ヶ月強、東南アジア等を回って10万人の患者を診たそうです。


 この病院船で対応できないこととしては、例えば磁気を使うMRIはちょっと無理だそうです。また、戦闘行為のために使われる時はどうしても外傷治療、逆に人道支援の時は予防的な治療が相対的に多くなります。また、この病院船では内部で治療が完結するものに特化しており、別途フォローアップが必要な事例は扱わないことにしているそうです。


 大体、ここに書いたことはこの資料 に書いてあることが多いです。色々と話を伺いながら思ったのは、「タンカー船を2億ドルかけて、1000床のベッドがある本格的な病院に改修した。運航している時は1日28万ドルが掛かる。そして、平均して2年の内、4-5ヶ月人道支援(パシフィック・パートナーシップ)に出ていっている。この病院船の意義は全く否定しないし、あればきっと役に立つだろうとは思うが、あまりに金食い虫。コストパフォーマンスはあまりに悪い。日本がこれを保有した時は、種々の事情から行けない地域が多いため、アメリカよりも活動の頻度が下がる可能性が高く、更に条件が悪い。しかも、フル回転する時には1000人以上の人が動員される。防衛医大のそのキャパシティはあるだろうか?」なんてことでした。


 この病院船に携わる方の中には「これはデカ過ぎる。もう25年経っているので、そろそろ次のことを考えなくてはいけないが、更に病院船を建造するかどうかは何とも言えない。もしかしたら、空から医療関係者、医療機器等の派遣を充実させる選択肢を追求するかもしれない。」といった意見もあると伺いました。病院船自体はアメリカの国際戦略の一環なのでしょうけども、それとコストとの見合いや25年前と比べての技術の発展を考える時、こういう意見も出てくるのはさもありなんと感じました。


 この病院船がある程度上手く行っているのは、それがアメリカだからであり、日本が保有した時にどうなるかについては、色々と困難な状況があるということを理解した視察でありました。日本にフィードバックしたいと思います。


 最後にあれこれと写真を添付しておきます。私は医療に詳しくないので、何が置いてあるのかさっぱり分かりませんでしたが、多分医療関係者であれば「ああ、この程度の機器が整っているのか。」ということはよくお分かりになると思いますので、最低限の整理だけをした上で掲載しておきます。


● 病院船の外観
治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

● 多分、食堂
治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ


● 船橋

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ


● 普通の病床(この手の部屋が15ある)
治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

● 特別な病床(多分、感染症系等への対応のため特別な部屋となっている)
治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

● 最初に患者が連れ込まれてくる部屋

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ 治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ


● 手術室

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ


● (門外漢なのでさっぱり分かりませんが)色々な医療機器や部屋
治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ  治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ

治大国若烹小鮮 ― おがた林太郎ブログ