グーグルの本社に行きました。シリコンバレーのマウンテン・ヴューと言われる場所にあります。まだ、創設13年ではあるものの世界的なIT関係の会社として皆様も御存じだと思います。世界全体で3万人、本社で8000人の人が働いているということでした。


 そこで働いている人は人種的にも多種多様で、やはりインド系、アジア系の顔付の方が多かったですね。人種の坩堝と言うか、誰もそんなことを気にしていないというのが正しいのだろうと思います。世界中から「我こそは」と思う人が集まってきているということです。社の方の説明では「他のIT系企業に比して転職率は低いはず。」ということでした。


 グーグルが開発した様々な商品についても色々と説明を受けましたが、私が知るグーグルはほんの一部であって、十分に使いこなせてない身が下手な筆致で書くよりも既に利用者たる各位がよく御存じだと思います。Google Earth、Google Map、Street View、震災の時に活躍したツールでもありました。Google Mapが安否確認に大活躍したことは有名な話ですし、Google Earthによって、福島第一原子力発電所20キロ圏内の家屋がどうなっているかを確認することができたという話も伺いました。また、Street Viewが「津波に罹災する前の地域のかつての姿」を残しているということで、グーグルのサイトで震災前、震災後の姿を対比できるようにした御苦労話も聞きました。震災後、たしか6-8月くらいの3ヶ月で4万キロ以上のStreet Viewを記録して、今の姿を記録に留めたそうです。たしかに今の姿を記録に残して半永久的に残すことは尊いことです。「1000年に一度の震災なら1000年残せるようにしよう、と思った。」と言われた時に胸がグッと来ました。その構想力、意思決定のスピード、すべてに驚かされました。


 既に巷間言われている通り、グーグルの中はまるで大学のキャンパスのような雰囲気でした。食事や飲み物はタダ、スーツを着ている人間はゼロ(着ている我々が恥ずかしくなるくらいでした)、社内で犬を連れて散歩している人もいました。食事の時間帯に出くわしましたが、まあ「ここはスタンフォード大学か?」と思わされました。フィットネス、スポーツ、文化、やりたいことは何でもできるといった感じで、しかもそこで働いている人は完全にフレックスタイムで働きたい時に働いて、きちんと成果を出しているというスタイルでした。ともかく、非常に自由な雰囲気を持つ大学のキャンパスをイメージしていただければOKです。訪問中、何度も「これが企業か?」と思わされることが幾度となくありました。会長のシュミットの拘りで「自分が働きたい環境をそのまま実現したそうです。


 どう形容していいのか分からないくらい斬新な労働環境であったことは事実です。これも有名な話ですが、労働時間の内、20%は自分の仕事とは違ったことをやるよう義務付ける「20%ルール」なんてのは、日本の企業戦士にはない発想です。そうすることによって想像力を高め、新たな創造を行っていく素地となるということは理屈では分かりますが、実践するというのはそうそう簡単なことではありません。ある意味示唆的だったのは「睡眠できる場所はあるのですか?」という質問に対して、「それをやると住んじゃう人がいるのでできるだけやらないようにしています」という返事があったことです。つまり、そこで働いている人達は、例えば大学の図書館で夜を徹して勉強している学生達と基本的なところは同じなんだろうと思わされました。昔、私も勉強が調子よくなってくると時間を完全に無視してやるタイプだったので感性がよく分かります。


 社長は必ず金曜の昼はカフェテリアで食事をしながら、社員とのディスカッションをしているそうです。その姿は世界中のグーグル社員がストリーミングで見ることができ、世界中から質問が寄せられ、それに対して社の方針、目標みたいなことを非常にフラットなかたちで議論しているということでした。意思疎通、意思決定すべてがフラットであり、色々な意味での敷居がすべて取り払われていました。


 世界を変えてやるといった気概を持ち、その目標に向かって走り、かつ、その環境をきちんと整えているということなのでしょう。その環境がちょっとカオス感を生みだし、その渾然一体とした中から新しい発想が生み出されてくるということでしょう。この企業で大変なのは、恐らく天才達がそれぞれの思いで開発し、持ちこんでくるアイデアを一つのものに集約して製品化していくプロセスだろうなあと思いました。個と我が強いくせ球が集まっている場所での取り纏め(国会も同様です)、それをどうやっているのかはとても興味がありますけど、さすがに今回、そこまで深いところに行きつくことはありませんでした。


 グーグルの中にいた間、一度として「営利を追っている」ということを感じませんでした。多分、技術者として働いている天才達も「カネを稼いでやろう」という意思をあまり持っていないはずです。私みたいな浅学非才と比較してはいけませんが、実は私もあまり「カネを得よう」と思って労働したことがありません。外務省勤務は完全に大学時代の延長でしたし、今も何処かそれを引きずっています。(国会議員がこういうことを言うと誤解を招きそうですが)ある理念、理想、目標があって、それに向かってやりたいことをやっているだけであって、収入は後ろからついてくるという感じで今でもいるわけですけど、黙々とパソコンに向かいながら嬉々として仕事をしている技術者を見ながら何となく似たような雰囲気を感じました。


 イメージ的には超巨大なNPOが株式上場しているような印象です。「事業利益をどんどん挙げて、それで会社を大きくする」という普通の株式会社の理屈に留まらず、「会社の価値を高めることでお金を集めて事業を行っている」ということなのでしょう。「我々は無料で大半のサービスを提供していますから、伝統的なGDPへの寄与という基準で行けば『(非常に誇張して)ゼロ』なんですよ。」と誇らしげに語る姿が、既存のビジネスモデルへのチャレンジなんだろうと思いました。どうしても古臭い我々は違和感を持ちがちですが、そういうモデルで起業することへのパラダイム・チェンジが起こっていることへの理解を深めました(本当に古臭いコメントですけどね。あくまでも実感として。)。


 ただ、ここまで書いてみて思ったことが「自分が見た自由な大学のキャンパスのような環境はグーグルのあくまでも一部」だということです。私が見たのは、技術開発の最先端の人達が自由な環境で製品開発等を行っている部分です。マウンテン・ヴューのグーグル敷地内にはいわゆる「普通の社屋」っぽい部分の方が多いわけでして、遠目に見てもそこにはキャンパス的な要素は感じ取ることができませんでした。そこでの職場環境も勿論、他社に比して大幅に自由な雰囲気があることは間違いありませんが、一方で必ずしも大学キャンパスのようではないでしょう。外に出て営業する時はスーツも着るでしょうし、かなり普通のサラリーマン的な部分があると思います。


 そうやって考えると、「たしかにグーグルの技術開発者達が働いている環境は驚天動地であるけども、それはあくまでも一部に過ぎない。我々が見せられたのは、あくまでもグーグルという会社のイメージ作りのためにショールーム的に公開されている部分である。ただ、それにしても凄い。」ということだと思いました。


 こういうのは行った直後、印象が新鮮な内に書き残すことが重要なので、ちょっと意地の悪いコメントも含め、書いておきます。