党内の社会保障と税の一体改革が纏まりました。色々と大変でしたが、まずは一歩前進です。今回、時期的に年末が押し迫っていたのであまり深く関与できませんでしたが、何度か会合に行きました。私は信念として消費税の増税は急いでやるべきだと思っていますし、今回、政府側から出された案についても「若干、財務省寄り過ぎるかな(例:5%の配分)」という疑念は残しつつも、基本的には支持する立場でした。


 ただ、ある時点からそれを主張する自分を鼓舞できなかったのも事実です。「声を上げなきゃいけないんだけど、どうしてもそこまでの気になれない。」といったことがありました。特に八ッ場ダム再開の話を見聞きしてからはどうも自分の中の盛り上がりに欠けました。といっても、私は八ッ場ダムにそれ程強い意見を持っているわけでも、深い知見を持っているわけでもありません。単に「このチグハグ感満載のプロセスを見せられて、そこから増税を言うのは、どんなに頭で分かっていても辛いよな。」ということです。TPPの党内議論の時は、それなりに自分で納得するところがあったので一騎当千くらいの気持ちでしたが、どうも今回はそうなれませんでした。


 そもそもの原因は、政権交代直後の国土交通大臣発言にあると思います。いくら政権交代し、マニフェストで謳っていたとは言え、いきなり「ダム廃止」と突き付けられては地元はガチガチに硬くなることは容易に分かります。私は八ッ場ダムは詳しくありませんが、昔、熊本の川辺川ダム問題について少し勉強したことがあります。いずれも歴史のあるダム建設事業ですから、既に立ち退きを強いられた方、公共事業に依存するしかない地域経済・・・、似たような姿が容易に想像できます。そのダムの必要性を信じて、自己を犠牲にされた方の思いを大事にしなくてはなりません。これまでの積み上げを考えれば、大臣が「廃止」を発言したくらいでは動かないことは自明の理です。こういう歴史の業が深い案件は、どうやって「断腸の思いで苦渋の決断」に持ち込むかが大事なのですけど、そこまで行くには、最初は「前提なしのご意見拝聴」からスタートして辛くも長いプロセスを経なくてはならないのです。


 私は実は本当にダムが必要なのかどうかがよく分かっていません。国土交通省の基本高水のデータがいい加減だという話もありますし、このまま工事を進める費用と止める費用を比べれば、進めた方が費用が少ないという説明も勿論知っていますが、今一つ現場感がないので分かりません。ただ、知っていることは治水事業の費用分析は極めていい加減で、個々の事業で計算するのでなくて流域全体でのB/C計算しかしないでどうも「ここの事業をやったら、リアルにどの程度のB/Cが叩きだせるのか」というのがさっぱり分からないということです。


 ただ、この事業を止めさせたかったのであれば、政権直後の国土交通大臣の言動はその方向には機能していなかったと言わざるを得ません。上記に書いたように、いきなり何の根回しもなく「廃止」発言をして地元を硬直化させただけでなく、国土交通省の中には「八ッ場ダム廃止」の味方はいないことは明らかだったわけですから、行政の何処かに廃止の応援団を作る必要があったはずです。私なら予算査定をやっている某省某局を味方につけてから戦おうとするかもしれません。あと、流域の地方自治体への根回しもありませんでした。ちょっと、東京都知事があれだけ八ッ場ダム賛成に回ったというのは意外な感じもありましたが(国土交通省との間で、某件の着工と八ッ場賛成をバーターしたという噂はありますがよく知りません)、いずれにせよ群馬、埼玉、東京といった自治体の知事に何の根回しもやらなかったというのは致命的です。これでは何も動かないことは明らか過ぎるくらい明らかです。


 そして、どなたが大臣の時か忘れましたが、この八ッ場ダムの検討会を関東地方整備局の下に設置した段階で、完全にペースが国土交通省のものになってしまいます。これだけ大きな案件を大臣の下で検討せずに、本省から少し離れた所にある関東地方整備局で検討させたというのはセンスの無さを表しています。こういうのは政務から遠くなればなるほど、役所のお手盛りをやりやすくなるのです。本当に止めさせる意図があるなら、大臣の直属の組織でやらなくてはいけないはずです。この段階で「勝負あり」なのです。国土交通官僚的には「あとは粛々と待って、八ッ場ダム再開に理解のある大臣が来るのを待つ」だけです。


 そして、建設省出身の大臣が来たところで、国土交通官僚は関東地整で着々と温めていたデータを持って勝負に出た、今回起こったことはそれだけのことなのです。レールは既にかなり前から引かれていて、国土交通省の河川官僚は何処で乾坤一擲の勝負に出るかを待っていたということでしょう。私が一番びっくりしたのは、国土交通大臣が頭を下げ、その前で地元の方々がバンザイをするあの映像がTVで流れたことです。普通の官僚の嗜みとしては、あんな映像を撮らせることはしないはずです。しかし、あえてあのアングルで撮らせたこと自体が国土交通省の河川官僚のリベンジの意思を強く感じさせます。ああいう残酷なことをやる人と喧嘩する時は、相当に腹を括らなきゃやれないということですね。


 繰り返しになりますが、私は八ッ場ダムについては特によく知りませんし、強い思いもありません。やった方がいいのか、止めた方がいいのかについても、正直なところ強い定見を持っていません。ただ、あれを止めさせたかったのであれば、スタートから手順が悪かったし、その過程で国土交通省の河川官僚が敷いたレールに完全に乗せられてしまったということです。逆に言えば、根回しと手順をしっかりして、時間をある程度かければ止めさせることは出来たはずです。


 「何かなあ・・・」と、すべてのボタンが掛け違ったまま、ここまで来たんだなということを感じます。