最近はあまり聞かなくなりましたが、「Numerical Target」、いわゆる数値目標というのが15年前くらいには日本を席巻しました。日本の市場でアメリカの半導体や自動車のシェアが伸びないのは、日本が閉鎖的だからだ、という結果から原因を勝手に演繹するやり方です。これに日本は悩まされました。半導体では「努力目標」だと思ってコミットしたら、事実上の義務として押し付けられたことがありましたね。自動車での橋本通産相とカンターUSTRの激しいやり取りを覚えておられる方もおられる方もおられるかもしれません。
何となく最近の「非関税障壁」の議論を聞いていると、数値目標的議論がその裏には潜んでいるのではないかと感じます。つまり、「うちの製品は世界では売れているけど、日本では売れてない。これは日本の制度が非関税障壁だからだ。」という論法です。まだ、露骨には数値設定的な動きはありませんけども、理屈の立て方自体は同じだよなと思います。
これには断固として身体を張って反対しなくてはなりません。非関税障壁があるかどうかということと、数値目標の議論を混同してはまたくだらない交渉事に巻き込まれてしまいます。私は最近、EUやアメリカの関係者と話すときは「数値目標的な発想を持っているようだが、これは身を呈して反対するからな。」と言うようにしています。大体にして慇懃に「そんなことはないですよ」という返事ですが、まあ、注意するに越したことはありません。
私は実は「非関税障壁」の最たるものは日本語だと思います。例えば、EUのビジネスマンで日本語のできる人がどれくらいいるのかというと殆どダメです。日本語ができないとどうしても市場の中に入っていくことが難しくなります。その努力を怠っておいて、日本市場は理解不能だというのは到底受け入れられる話ではありません。日本のビジネスマンは一生懸命、言葉を学び、文化に馴染み、そこで外国市場のドアをこじ開けてきたわけですから、同じ努力をしろということになります。
ということで、今、「日本が世界で大きなシェアを持っているもので、アメリカ、EUそれぞれの市場でシェアが著しく低いもの」というのを調べています。同じことなのです。もし、アメリカやEUから数値目標的なアプローチが来たら、その時はこちらもカウンターアタックをしなくてはなりませんからね。
世界の貿易構造が何となくブロック化の傾向を見せているようにも見える昨今、この手の数値目標の亡霊があちこちを徘徊しているように見えてなりません。15年前、日本でこれが評判が悪かったことは皆、知っており、直截的なかたちではこの亡霊は出てきません。偽装された数値目標だから逆に性質が悪いのです。徹底的に叩き潰す気概を持ちたいと思います。