野田総理が日米首脳会談で「日本はすべての品目、サービスをテーブルに全部乗せる」と言ったかどうかで揉めています。仮にそれを言ったのであれば、私はこれはダメだと思います(もし、言ってないのであれば、ホワイトハウスのサイトの記述 を訂正させるべきです。)。他方、国内で「すべてテーブルに乗せるのはけしからん」という反応が出ています。私はこれもダメだと思います。ダメ出しばかりではいけないので真意を説明します。


 私の意図は「交渉に入るまでは一切のdown-payment(前払い)をしない。」ということにあります。これだけです。そして、それはすべてのメンバーに同様に適用されるべきだと思います。


 仮に野田総理の発言が大統領府サイトの通りであれば、日本が一方的にすべての品目、サービスをテーブルに乗せることをコミットしたということになります。私はそれは絶対にダメだと思います。アメリカにはこれまで国際交渉に絶対に乗せてこなかったものが結構あります。一番露骨なのは、アメリカの内航海運に外資が入ってくることを禁止しているジョーンズ・アクトと言われるものです。これはWTO協定の一部をなす1994年GATT の第3項(a)で協定対象から排除されています。こんな露骨な規定があることを問題視していたのが松岡利勝元農相でした。日本は「ジョーンズ・アクトをテーブルに乗せろ」と言うべきなのですね。その他にも運用の曖昧さが残る「エクソン・フロリオ条項」とか、まあ、色々突かれると痛いものがあります。それをすべてテーブルの上に乗せるよう求めるのが、外交交渉というものだと思います。それが出来ないのであれば、結局は「負け筋」のところから議論を始めることになります。


 では、「すべてテーブルに乗せるのはけしからん」というのが何故ダメかというと、それは一種の前払い、というか「前・払い拒否(便宜的に「・」を入れています)」だからです。こんな英語があるかどうかは知りませんが「down-no-payment」なのです。それをやるということは、「払い拒否」に対する対価を求められることを許容するという意味合いを持つからです。交渉に入る前の前払いを拒否すべきであることを否定する人はいないと思います。であれば、前・払い拒否もやってはいけないのです。それは既に交渉に入っているということと同義であり、確実に対価を求められます。


(なお、ここでいう「テーブルに乗せる」というのは「譲歩する」ということを一切意味していません。あくまでも「議論には応じる」ということだけです。そこでダメなものはダメと言うことを前提にテーブルには乗せるというものが相当あるということはご理解ください。)


 日本が取るべき方向性は、一方的にすべてをテーブルに乗せるのでもなく、かといって一部をテーブルに乗せないということでもなく、すべてのメンバーがすべてをテーブルに乗せるということを担保することのはずなのです。その上で、交渉を通じて全体で利益の出し入れをしていくということになります。それ以上に良い戦略はないと信じています。


 なので、これからの日本の事前協議における基本的姿勢は「前払いは前向きなもの(払い)でも、後ろ向き(払い拒否)であっても、一切やらない。その代わり、すべての品目、サービスをテーブルに乗せる。そして、それをすべての相手国に求める。それが拒否されるようなら、早速枠組みから抜ける。」、これでいいと思います。それ以上のことを約束する必要はありません。特定のテーマについての特別な協議の場の設置を求められる場合は微妙ですが、基本的には「それは交渉に入ったら考えよう。いずれにせよ、テーブルに乗せることは乗せる。」と言い続けてみるのがいいのではないかと思います。


 ちょっと理想論を語りすぎですが、今の世論の動きを見ていると、ちょっと「?」というものを感じます。「日本(だけ)がすべてをテーブルに乗せる」のも、「事前除外を求める」のも、どちらも戦略としては採ってはならないのです。