実は党内議論の早い段階から、私と有志議員数名でこっそりと「落とし所ペーパー」みたいなものを書いていました。私みたいな推進派から反対派まで主張の異なる議員で相当に良い議論を裏でしていました。


 結局、日の目を見ませんでしたけど、その結論は「事前協議」でした。これは相当早い段階で「ここなら(同床異夢で)落とせるだろう」ということでした。今になって、色々な人が「交渉参加といっても事前協議はあるのだから、『交渉参加』と『事前協議』は同じことだ。」と話しているあの主張です。私は「党内は『事前協議』で纏めて、総理はそこから一歩だけ踏み出して、その前に『交渉を視野に』という言葉を入れる。」というのが落とし所としてはよかろうと思っていました。そういう方向でどうだろうか、と粉かけをしてみたことも数度あります(が、その時点では流れを作れませんでした。)。


 最終的には、実際の政府のポジションと我々の案はほぼ同じ所に落ちているのですけど、今回の実際の流れのように「もっと前向きだった」ところから少し下がったように見えるのと、我々が構想していたように党のポジションから一歩踏み出したように見えるのでは、政治的には意味合いが相当に異なります。


 そういう中、私は勝手に英語まで考えていました。何に使うのかは分かりませんでしたが、英語で書くならどの程度の表現で打ち出すのが良いのかということです。私が書いた案は「Sharing the view that a high-level and wide-range economic cooperation should be required in Asia-Pacific region, Japan expresses its willingness to hold pre-discussions with a view to pursuing a possibility of becoming the official member in TPP framework.」でした。ちなみにプロセスに深く噛んでいる何人かに「こんな感じじゃないんですかねえ、日米首脳会談は。」と打診 してみたのですが、えてして評判は悪かったです。ただ、アメリカ大統領府のステートメントは「Prime Minister Noda noted that he had decided to begin consultations with TPP members, with an eye to joining the TPP negotiations.」です。私の上記の文章と大して差がありません。「交渉(negotiation)」という言葉を意図的に避けようと知恵を練った、私の意図を察してください。


 あと、これからの交渉(に向けた事前協議)ですが、私はこの段階で確保すべきは何かというと、私は「交渉に臨むに際して真っ白であること」だと思います。ちょっと難しく言うと「タブラ・ラサな状態」です。今の時点で確保すべきは、全部テーブルには乗せましょう(全部譲歩しましょう、ではありません。除外は除外で主張することを含意しています。)、ただし何にも拘束されません、ということのはずです。そして、それをアメリカにも求めるべきです。うちから「アンチ・ダンピング、バイ・アメリカン条項、政府調達、色々と言いたいことはある。全部、テーブルに乗せるということでいいのだな。」くらいは常識として言うべきです。そこのイコール・フッティングを、アメリカを始めとする諸外国がコミットしないのなら、早速、日本は枠組みから出ていっていいと思います。政府は事後否定していますが、もし、アメリカ大統領府のステートメントのとおり「he welcomed Prime Minister Noda's statement that he would put all goods, as well as services, on the negotiating table for trade liberalization」と日本が一方的なコミットをしたかのような事実があるのなら、私は野田総理に噛みつきまくるでしょう。


 そういう視点からは、本当は「大枠合意」みたいなものは良くないんですけどね。こういう大掛かりな交渉モノは「Nothing is agreed until everything is agreed.」ですから、先に成果を一部でも刈り取ってしまうと交渉の泳ぐ余地が少し下がるのです。ただ、どうも「大枠合意」なるものを報道で聞く限りは「大したものがない」という印象ですので、まだ実害はないのかもしれません。


 このテーマも語り始めると長くなりますけど、今日はこの辺りで。