ちょっと、今日の題に入る前に4年半前に書いたブログを紹介します(ココ )。まあ、今でも似たようなことを思います。そして、今、私が想定したことと別のかたちで、この事例が出始めているのではないかと思っています。積極的にこういう取組をやるのと、追い込まれてこういう取組をやるのでは大きな違いがあります。


 今日は前回のエントリーの続きです。仮にTPPをやるのであれば、担当の国務大臣を一人置くべきだと思います。というか、私は通商交渉を一括して専任となる国務大臣を置いた方が良いという考えの持ち主です。


 というのも、今の通商交渉はFTAにせよ、WTOにせよ、パッケージで議論されることが普通です。全体の議論を見ながら、利益の出し入れをしなくてはならないのです。ウルグアイ・ラウンドの最終局面ではアメリカのミッキー・カンターとECのレオン・ブリタンはこれをかなり激しくやっていました。そこでは交渉分野を跨いで、これで譲るからこれを出せ、みたいな交渉をやっていたということです。


 何故、それが必要かというと、個々の交渉分野に立てこもって戦っていると、取れるものも取れないことがあるのです。例えば、投資の分野でもっと取りたいものがあるけども、やはり交渉はギブ・アンド・テイクですから、あまり投資の分野に立てこもっているだけでは大きく前進を見ることが出来ないのが通例です。最初はそれでもいいのですけど、交渉が最終局面になって、テーマが絞られてくるとこのハイレベルでの膝をつき合わせてのやり取りがとても重要になってきます。


 その段階で日本はいつもやられてきました。各交渉分野にはそれぞれのステークホルダーたる役所があります。そこが出張っていって、その役所だけの関心事項で相手と戦うという、国内の縦割り構造をそのまま外交の場に持ち込んできたのがこれまでの日本の通商外交でした。


 まあ、所管物資や所管分野を持たない外務省がその役割を果たすことが望ましいのかもしれません。私がWTO担当補佐だった時代、あるテーマについて農水省と経産省と財務省から全く方向性が逆のことを言われて、泣きそうになりながら折り合いを付けようとしたことが何度もあります。それでも、実はWTO交渉では相対的にこれがやりやすかったように思います。というのも、どんなに各省があれこれやっていても、最後はジュネーブの大使のところで一旦は集約が図られていきます。やはり、どんな交渉でも大使レベルでの協議に持ち込まれることがあるので、それを念頭に入れると、ジュネーブの大使のところで(不十分ながらも)一定の集約は可能でした。それぞれの省庁は外務省がどんなに不愉快で嫌いでも、大使級協議のところで集約を図らなくてはいけないという事実があるということです。それでも、利益の出し入れ的な交渉にまでは至りませんでした。


 ただ、私の経験では、FTA交渉ではこの集約感が全くないのです。ジュネーブの大使に相当する人物が存在しないまま、交渉に乗り込んでしまうので、各省が関心分野でそれぞれ立てこもってやってしまうことが可能なのです。ジュネーブの大使に相当する政府代表を決めることすら、各省は反対します。そして、交渉全体の統一感に欠けてしまい、ましてや全体での利益の出し入れなんて夢のまた夢ということになります。


 以前も書きましたが、これには幾つか理由がありますが、一番大きいのは、農林水産省には「利益の出し入れをするような総合調整機能が働けば、うちが犠牲になる」という思いがあるということでしょう。「交渉全体でバランスを取る」と一見当たり前のことが通用しないのですね。「交渉全体でバランスを取り、農業交渉自体でもバランスを取る」ということになります。これ自体は別に否定するべきことでもないのですが、それを理屈として、すべての省庁が内向きに逆噴射して自分の関心分野で立てこもられては本当にろくな交渉になりません。


 なので、事務レベルで集約を図るよりも、国務大臣を一人置いて交渉に臨むのが一番良いと思うのです。内閣府の担当大臣として、①通商ルールに詳しい、②英語ができる、という条件の人を配置するイメージです。そして、そこにすべてを集約して、スタッフも外務、農水、経産等から引っぺがして付けて交渉に臨んでいくようにし、関係省庁はそのサポートに徹するというスタイルにするのがいいように思います。勿論、事務レベル協議にいつも大臣が行くわけにはいきませんから、政務官を一人専任でつけて、通常はその政務官がガンガン交渉するということになるでしょう。


 まあ、これを日本版USTRと呼びたいのであれば、それはそれでいいです。ともかく、日本の省庁間の縦割りが現時点では交渉現場に露骨に持ち込まれていて、それを知悉する国からは「日本は各省を分断して、それぞれの分野で押し込めばいい」と思われているうちは、どんな交渉をやっても負けます。


 これについては、昔、似たようなことを書いていました(ココ の一部とココ )。特に後者のリンクのブログでリンクを張っている写真が一番、私の言っていることを如実に表しています。これじゃダメだ、そう思いませんか。