私は一つ思うのは「議員外交」が重要なんだろうと思います。かつて、外務省時代にあまり議員外交なるものが好きでなかったので、「議員になったら宗旨替えか?」とお叱りを受けそうですが、そうではありません。


 というのも、先日エドワードヒロシマさんがコメントでご指摘いただいたことですが、今、アメリカの交渉権限は議会にあるからです。非常に不思議な規定なのですが、アメリカ憲法では「通商を規制する」権限が議会にあります。これは古臭い規定でして、アメリカという国の黎明期にできたものです。あまり、今のように諸外国との通商が盛んでなかった時代、「州際間の通商」について規制権限を連邦議会に認めることとほぼ同じ感覚でできたのだろうと思います。


 この規定があるが故に、アメリカの歴代政権はこの権限を行政に委託する法律を勝ち取ろうとしてきました。もっと言うと、議会レベルでは行政府が妥結してきた通商交渉の結果を受け入れるか、拒否するかの権限しか認めないような規定(ファストトラック条項)を盛り込んできたわけです。そして、今、その法律(Trade Promotion Authority:TPA)は議会を通っていません。


 ということは、行政府はTPAがない状態でも交渉はやれますけども、例えば日本が交渉に入るのにも議会承認が必要なのですし、一括受諾の規定がない状態では、仮に交渉妥結をしたとしても、議会に行った段階で「これこれを修正してこい」と言われることは必定です。非常に雑な言い方をすれば、交渉の前面に出てくる行政は議会のエージェントでしかないわけでして、本来であれば日本は「あのね、きちんと権限のあるヤツを出しなさい」と言うことすらできるわけです。目の前にいる交渉官が相手ではなく、その後ろに控えている議会が交渉相手であることはご指摘のとおり、きちんと議論しなくてはならないテーマです。

 先日、報道に「TPPの交渉に入ろうと思ったら、まず行政府とやり取りをして、行政府が『議会に出しても何とか大丈夫だろう』というところまで、日本の交渉に臨む姿勢を調整した上でないとダメだということになる。それには、議会での審議に当てられる90日以上の時間がかかる。」といった趣旨のことがありました。まあ、私からすると「そりゃ、そうだろう。何ら不思議なことはない。」と思いますけども、であればこそ、所詮エージェントに過ぎない行政府を介した隔靴掻痒の議論をするよりも、議会間でやり取りをするのがベストなはずです。まあ、日本の議会側には交渉権限がないので、今度は権限のない日本の議員が権限のあるアメリカの議員とやり取りをするという変な構図ではありますけど。


 アメリカの特殊な憲法に起因するところがあるのですけど、それを所与のものとすれば、議員外交がこれ程効果を示すタイミングはないです。アメリカ側に「エージェントはどけ。ボスは誰だ?」と聞いてみて、そのボス(議会で決定権限を持っている委員会の人達なんでしょう、きっと)に突撃していけばいいんじゃないかと思ったりします。