福岡県と福岡市、北九州市の2政令指定都市が共同で「グリーンアジア国際戦略特区」なるものを特区提案するということが決まりました。本件に関しては、私は個人的な思い入れを持って内閣府等から情報収集してきただけに、「最終的にそういうことになったのか」と感慨深いものがあります。


 内容については、まだよく承知をしていませんが、新聞記事を見る限りでは8事業中、4事業は北九州市によるもので環境技術の海外展開を目指す「アジア低炭素化センター」、官民による海外水ビジネスの展開、八幡東区東田地区でのスマートコミュニティ創造事業等であって、福岡県は中小企業のアジア展開支援や、環境関連の技術革新を図る「グリーンイノベーション」の研究拠点づくり等の3事業、福岡市は博多-中国・上海間に就航している「RORO船」(コンテナをトレーラーの台車ごと積み込む貨物船)をさらに生かした東アジア向けの高速物流網の整備事業という1事業という構成のようです。


 これだけ聞くと、「おお、両政令都市と県が協力して、一つの特区を取りに行くのはいいことじゃないか。」と思われるでしょう。しかし、それは全然違うのです。これまでの経緯を良く知るものとして、本件に関する問題点を簡潔に指摘しておきます。なお、以下はあくまでも私の意見であって、特定の団体、組織の意見を踏まえたり、それらの意向に沿ったものでは一切ありません。


 まず、総合特区という制度について説明します。これは2種類あって、大まかに言うと、産業の国際競争力強化を目的とする「国際戦略総合特区」と、地域資源を生かす「地域活性化総合特区」があります。これだけだとよく分からないので、もう少し砕いて説明すると、国際戦略特区は技術の革新、産業の集積等を国規模で実現していこうというもので、税制措置として法人税減税までをも見据えたものです。地域活性化というのは、その地域が活性化することを目的としたものであって、税制としては所得税減税に留まり、イメージ的にはベンチャー税制に近いです。国際戦略特区について、私は「世界的にハイレベルなオンリーワンを目指す」という言い方をしています。そして、国際戦略特区については、そこで高められた技術等の成果については独り占めすることなく、日本全国に均霑していくことが求められます。


 北九州市の培ってきた事業というのは基本的にこの国際戦略特区のような方向性を意識しています。アジア低炭素化センターにしても、水ビジネスにしても、スマートコミュニティにしても、勿論北九州市という街に恩恵が及ぶことはいうまでもありませんが、これが上手く進んだところで得られる技術、ノウハウというのは日本全国に広げていくことが期待されるものです。簡単に言えば、「これまで環境の分野でトップランナーになろうと意識してやってきたものを、この特区を機に頂点にまで飛躍させる」ということです。


 しかし、例えば、福岡県の中小企業のアジア展開支援とか、福岡市のRORO船高速物流網整備なんてのは、その案件の性質上、「国際戦略特区」としては非常に馴染みにくいものです。単に「うちの街が活性化していけばいい」以上の広がりがないのです。正直なところ、私が財務省主税局の人間だったら「どうやって、こんな案件に法人税減税措置を講ずることができるのだ?」と頭の中身がハテナで一杯になってしまいます。


 今回の共同申請は、事実上、北九州市の案件に福岡県と福岡市が合流してきたという感じです。私はかなり早い段階から、福岡県の方には「県単独にせよ、北九州とのジョイントにせよ、国際戦略特区の性質に馴染む案件の作り込みをしないと恥をかきますよ。中小企業のアジア展開支援は地域活性化特区にしかならないんですよ。当選直後の小川知事に恥をかかせないためにも知恵を出さなきゃダメですよ。」と言い続けてきました。少なくとも高いランクの方に数回同じことを言ったことがあります。


 最終的に共同申請に関する新聞記事を見ていると、「福岡県庁は本当に国際戦略特区と地域活性化特区の違いを理解していたのだろうか?」と疑問になります。少なくとも、国の総合特区法におけるスキームを前提とした案件の作り込みの跡が全く見て取れません。福岡市についても全く同じ感想です。福岡県庁と福岡市役所は何をどう検討したら、こうなったのかがさっぱり分かりません。


 つまり、何が言いたいかというと、今回の福岡県+2政令指定都市による国際戦略特区共同申請は、その中身に一貫性がなく、国際戦略特区に含めることがそもそも適当でないものが入っている、ということです。私が内閣府や財務省のお役人ならば、最初のリアクションは「あのね、おたくのプロジェクトの中で国際戦略特区に馴染むものとそうでないものを精査してきてくれますか。これら全部に法人税減税措置をすることができないことなんか、あなた達なら分かるでしょう?」となるでしょう(実際も多分、それに近い反応のはずです。)。その時に、福岡県と両政令指定都市の「ガラスの連帯」が壊れないかなと心配になります。


 多分、逆側から見れば別のピクチャーが見えるのだと思いますけども、これまで本件をしつこくフォローしてきた者として、こんな感想を抱きました。