第三次補正予算の復興財源とその償還を検討する会合は終わりました。結果はメディア等で報じられているとおりです。「増税」、重い結論です。この重い結論を国民の皆様にお願いする以上、我々政治家はきちんと襟を正す必要があります。


 さて、種々の会合で私は「睡眠口座(dormant account)」が使えないかという話をしました。これは一定期間、引き出し等がない口座のことで、ここにある預貯金を復興等の財源として使えないかという発想です。ただ、言いっ放しも良くないので金融庁から具体的に聴取してみました。結論から言うと「うーん、難しい」ということでした。聴取したメモを作成したので、少し書き直してからここにアップします。なお、このメモの内容等についての責任(私の聞き間違い、認識違いを含め)は勿論全て私にあります。ちなみによく「休眠口座」と言われますが、金融庁は「睡眠口座」と呼んでいましたのでそちらを使います。


・ 銀行に対する預金債権の消滅時効は本来5年。ただし、銀行では実務上、1万円以上の預金は10年取引がなければ郵送通知を行い、それで連絡が付かないものを睡眠口座としている。1万円未満のものは10年経てば自動的に睡眠口座となる。なお、かつての民営化前の郵便局では10年で睡眠口座として、それから10年取引がなければ債権が消滅することが法定されていた(民営化前に開設した口座については現在も同じ取扱であり、20年での権利消滅についてはそれなりにトラブルの原因になっているところもある。)。


・ 10年経って睡眠口座扱いになったものは、会計処理上「雑益」となる。実は銀行側は雑益処理を望んでいなかったが、税務当局側から「商法上は5年で消滅時効なんだから雑益処理すべし」と言われて、今のような扱いとしている。なお、睡眠口座になっても支払い要求があればいつでもそれに応じるようにしており、その場合は「雑損」として扱われる。


・ 銀行全体では22年度3月期で760億円の雑益、290億円の雑損となっている。信金、信組まで入れるとそれぞれ850億円、350億円程度。概ね4割の払い戻しがあるということで、諸外国よりもその比率が高い(私が調べた限り、諸外国は1-2割程度でどんなに多くても3割を超えることはなかったので驚きでした。)。時折、睡眠口座の金額として年1000億とされているのは、農協、漁協、郵貯等を合わせたものではないかと思う。


・ 銀行では睡眠口座になると簿外管理となり、紙ベースでの帳簿管理に移行する(コンピュータシステムの中には睡眠口座になった事実だけが残る。)。ただし、預金者の権利が無くなるわけではない。


・ 睡眠口座のうち、9割以上が1万円以下の口座であり、1メガバンクあたり概ね100万口座があるため、100億円くらいだと見積もっている。これらの口座を管理するだけで相当な費用がかかるため、仮に上記の500億円弱(760億-290億)の金額を何らかの別の用途に使うとしても、その費用(例:コンピュータシステム上の管理コスト、預金者への通信費等)や雑益処理した後の税負担はその中から捻出しなくてはならない。睡眠口座の数が多いため、その管理に金がかかっており、そのコストを銀行に押しつけつつ、睡眠口座の果実だけを取っていくことはできないということである。


・ なお、例えばりそな銀行は2年強取引のない1万円未満の口座については年間1200円の手数料を取ることとしている。したがって、1万円ギリギリの睡眠口座であっても取引が無くなってから10年くらいで預金がゼロになり、口座そのものが解約されることとなる。その他、シティバンク銀行は30万円以下の口座には月2100円(年25200円)の手数料を取っているが、これは休眠口座対策というより、顧客をセレクトするためだろう(注:休眠口座対策として、米国ではCitibankが月8ドル、Bank of Americaが月8.95ドル、Wells Fargoが月5ドル、カナダではRoyal Bank of Canadaが月4カナダドル、シンガポールではDBSが月7.5シンガポールドル、オーストラリアではANZが5オーストラリアドルを徴収している。)。


・ 英国では睡眠口座活用のための法律はできたが、まだ金融機関の参加は任意である。韓国は誰でも金融機関横断的に自分の睡眠口座を探せるシステム構築がなされていると聞いているが、これは総番号制ができているからではないか。ただ、本人確認等の個人情報保護がどのように行われているのかは分からない。


 「もう少し突っこみ所があるよな」とは思いますが、それにしても簡単ではないなという印象を持ちました。ただ、諦めるのはまだ味がある「鶏肋」だという気がしています。もう少し勉強してみたいと思います。