先日、いつものように都内某所で元気に柔道をやっていた時のことです。私は左組み、相手は右組みでけんか四つでした。お互いが袖を引こうとけん制し合う中、私が乾坤一擲の「谷落とし」をやったところ、結構綺麗に決まって相手をゴロリとひっくり返しました。試合だったら一本だったはずです。


 この技、説明するのが難しいので映像を探したのですが、「これ!」というのが見当たりませんでした。画像と文字で解説すると大体こんな感じ です。中学時代に恩師本田先生から教えてもらった技でして、他の同級生はあまり積極的にマスターしようとしていませんでしたが、裏をかいて繰り出すその意外感が好きだったので、私は起死回生の技として時折出していました。高校時代、何度かこの技で会心の一本、技ありを取ったものです。


 しかしです、先日、この技を出した時、師範の先生から「ああ、それね、国際ルールで反則負けになるから」と言われてしまいました。「ガーン!!」とショックで、ショックで目の前が暗くなってしまいました。理屈は分かるのです。国際大会などで繰り広げられてきた、いきなりもろ手狩り、肩車に入っていき、きちんと襟と袖を持ち合う柔道ではなく、相手の懐に飛び込んで倒したら勝ちみたいな柔道を苦々しく見ていた方も多いと思います。最近のルール改正で、そういう柔道を戒めるために「いきなり足を取りに行くような技は一発反則負け」になってしまったのです。


 ただですね、私が谷落としを出す時は「内股に行くぞ」、「大外刈りに行くぞ」とフェイントをかけながら、しれーっと逆側の技をかけるわけでありまして、かけ逃げの要素はあまりないと勝手に自負しています。「あれを反則だと言われる筋合いはない。誰だ、こんな極端な国際ルールを作ったのは!」と憤慨すること頻りです。


 そうなのです、日本は国際柔道連盟で十分に意見を通しきれてないのではないかと、以前ブログに書きましたが、やはり、最近のルール改正を見ているとすごく極端から極端に振れることが多いのです。多分、この谷落とし禁止も数年経つと「柔道に多様な動きが減った」とかいった理由で見直されるのではないかと思います。基本とすべきなのは日本の伝統的な柔道のスタイルであって、それを余すところなくきちんと(公用語の)英語かフランス語で伝えることができる人間を育成しなくては、いつまで経っても日本は柔道についてはルールメイカーではなく、ルールテイカーで終わってしまうのです。そして、納得のいかないルールで国際大会に出て行っては翻弄されて負ける。それではダメだということです。


 ちなみに、谷落としについては思い出があります。高校二年の時の県大会、一回戦は勝ちあがったものの二回戦は優勝候補大牟田高校。私は大将でしたけど、目の前にいうのは130キロはありそうな重量級。勿論、先鋒から大将まで強豪揃いです。


 こういう時の私の口癖はいつもきまっていて、真顔で他の部員に「1対1で俺まで回ってきたら、俺が取ってくる」と檄を飛ばすのです。これだけ聞くと格好いいかもしれませんが、何のことはない、どう考えても勝てっこないからジョークを飛ばしているだけなのです。同級生の亮が「こういう局面でくだらないジョークを言うんじゃない」と言わんばかりを顔をしていたのを思い出します。


 主将としては「5対0じゃなきゃいいけどな」と思っていたら、先鋒の正哉が引き分けてきました。ヘタレの主将は「本当に1対1で来たらどうしよう」と不安にな・・・ることもなく、その後の3人は負けてしまい、3対0で私に回ってきました。相手は130キロの重量級、しかも大牟田高校。やる前から泣けそうでした。


 ただですね、その日の私は少しだけ健闘したのです。少なくとも1分半くらいまではポイントなしで頑張った記憶があります。ただ、もういいように振り回されながらもギリギリのところで投げられなかっただけです。そして、けんか四つの状態で袖の取り合いをしながら、相手の右足が無防備に出ているのを見た私は「よし、今だ!」と思って会心の谷落としを飛ばしたのです。


 ちょっと強がりを言うと、技の入り自体はなかなか良かったのです。同じくらいの体重の相手なら投げていたかもしれません。ただ、相手は130キロ強、びくともすることなく、そのままグシャッと押しつぶされて押さえ込み。万事休すでした。見ている人からすると、自分で勝手に崩れて押さえ込まれて、極めて格好悪い負け方でした。試合が終わった後、亮がニタニタしながら私を見ていたのもいい思い出です。


 ということで、後半は余計な話でしたけど、結論を言うと「正当な谷落としまでをも禁じる国際ルールはおかしい。早急に是正を求めたい。」という単純なものでした。