過去には必要性のあったものだけども、今はもう要らないだろうと思えるものが行政の中には相当にあります。古巣外務省をちょっと思い出した際、「そうそう、もうあの制度って要らないんじゃないの?」と思うものがありました。


 それは在外公館の「公用物資調達」という制度です。これは何かと言うと、途上国ではなかなか大使公邸で必要なものだったり、館員の生活に必要なものが調達しにくいので、館員が先進国まで出張に行くという制度です。例として考えられるのは日本食の食材です。公用で使う物資を調達するついでに、私的に使うものの購入もお願いするのが常でした。支払いは公用のものは公費、私的なものは勿論ポケットマネーです。


 私がセネガルにいた際にもこの制度はありました。事実上、先進国での骨休め的な意義もあったように記憶しています。私は「こんな制度、くだらない。」と公言して、一度もこの制度でダカールからパリまで出張したことはありませんでした。また、独身だったということもあるのでしょうけど、公用物資調達出張者に頼むものも殆どありませんでした。


 公用物資調達でわざわざ出張者が先進国に行くわけですが、そもそも、事前に購入希望物品リストは当該先進国にある業者にfaxやメールで伝えてあるので、出張者が自分であちこち買って回るわけではありません。元々頼んでいたものを引き取るだけです。


 私がアフリカに居た12-3年前、通信も流通も今ほど充実していませんでしたが、当時から私は「こんなものはこちらからリストをパリに送って、ブツを航空便で送ってもらえば足りる話であって、わざわざ館員が仕事の一環として、しかも公金でパリまで出張する意味なし。」と思っていました(ので行きませんでした。)。当時でも私はよくウェブで買い物をしており、ダカールまで郵送してもらっても何の支障もありませんでした。当時から商社の方々は多分、そうやっていました。厳しいコスト感覚を持っている商社の方々には「公用物資調達」なんてこと自体が思い浮かばないでしょう。


 ましてや、今は通信手段から流通から格段の進歩です。メールで注文して、それで航空便で送ってもらえば事足りるわけで、わざわざ高い旅費を払ってやるほどの意味はありません。とどのところ、単に館員の体のいい(出張と名の付いた)骨休めでしかありません。


 ということで、今でもどれくらい、この公用物資調達をやっているのかを調べてみました。過去5年間、毎年500回程度で安定しています(全在外公館の計)。114の在外公館からこの出張が出ており、概ね年10回を超えているのはカンボジア、パキスタン、ミャンマー、モンゴル、ラオス、キューバ、ウラジオストック、イエメン、イラン、アルジェリア、ギニア、コンゴ民、スーダン、ナイジェリアです。つまり、ここから推測されるのは「公用物資の必要性に応じて回数が多いのではなく、生活が相対的に厳しいところ程多い。」ということです。もっと言うと「骨休め」的な意味合いが強いです。私の居たセネガルは、12-3年前でも年10回程度でしたが、今でも7-8回ですからあまり変わっていません。しかし、当時と今のダカールではモノの充実ぶりには大きな差があります。わざわざパリまで行かなければ買えないものは確実に減ってきているはずなのに回数に差がないというのはおかしなことです。


 しかも、当時から「こいつ、絶対に許せん」と思っていたのは、大使館の幹部クラスがこの公用物資調達に行くことです。昨年度でも7名が行っています。ここで言う幹部とは「参事官以上」です。「あなたが行くと旅費も高いし、そもそも幹部クラスが行く出張じゃないだろう。」と当時から思っていました。私の時は、なんと大使がこの公用物資調達に行ったケースがありました(今はないそうです)。私の勤務していた大使館の大使が「次の公用物資調達は自分が行く」と館内会議で言った時、「いい加減にしろ、バカ」と呟いたことを思い出します。そもそも、こういう幹部が行く時は細々としたものを頼みにくいという弊もあるわけです。アフリカ在勤時、ある館員が公用物資調達出張に行く幹部に子ども用の「きのこの山」を頼んだのですが、大量のキノコ(champignon)を買って帰ってきて、私はその館員と顔をつきあわせながら「違うんだよなあ、これ...。」と苦笑いしたのを覚えています。「たけのこの里」を頼んでいたら、どうなっていたのやら...。


 年間500回ですから、旅費等すべて計算すると予算は1億円を超えるのではないかと思います。私は制度自体が要らない大使館が大半だと判断しています。事実上、「骨休め」の意義が強く、しかも人間様が出張までしないと買えないものなど殆どないわけです。実務上、非常に過酷な勤務地においては、こういう制度をも活用しながら館員に休暇を取らせるよう工面していることは知っています。しかし、それだからといって制度が正当化できるわけではなく、そういう過酷な勤務地については真正面から休暇が取れるようにすべきなのです。


 今度、何処かで外務省に「もう、この制度、大幅縮小して外注したら?」と言ってみようと思います。