このブログで幾度となく「特定海域」について書きました。今から思い直すと、若干事実に反することも書いたなあと反省することがたくさんありますが、非常にザックリと纏めておきます。


 まず、この特定海域というのは宗谷、津軽、対馬東水道、西水道、大隅の5海峡では、領海の主張を12カイリではなく、「当分の間」3カイリの主張に留めています。そのメリット、デメリットを私の理解する限りで列挙していきたいと思います。テクニカルな表現をそのまま使いますので、分かりにくいところがありますがご容赦ください。


● (領海を3カイリとする)メリット

・ 12カイリを主張すると、結果としてこの5海峡は国際海峡と位置づけられ、領海の無害通航よりも更に航行の自由が保障される通過通航が認められる。通過通航を船舶に認める場合、潜水艦の浮上を求めることができない、海峡の場所を問わず他国船籍に自由度の高い通航を認めざるを得ない等の不利益がある。


・ 逆に今のように公海部分を残しておくと、例えば軍艦が海峡通過する際に、慣行として領海ではなく公海部分に誘導することができる(これは国際法上は根拠がありませんが、実際にそういう運用をしているようです。)。


(緒方注:ただし、通過通航でも分離通航帯を設けることは一定の要件の下で可能であり、ここは調整次第です。)


・ 核兵器搭載艦が、日本の非核三原則の「持ち込ませない」と配置しないかたちで、これらの海峡を通過することができる。


● (領海を3カイリとする)デメリット

・ 日本として主張できる領海が狭い。


 ちなみに政府は、この特定海域の制度については「海洋国家として、海洋の自由な通航をできるだけ保障することが日本の国益となる」という理由で、5海峡に公海部分を残しているわけですが、領土、領海に対する意識が高まっている中、この説明ではもう押していけないでしょう。


 お役所は上記メリットの内、上2つを主張しながら、この特定海域の制度をいじることにとても反対します。お役所は一般的に、確立した制度の中で既に確立した慣行を動かすことを嫌がります。ただ、ここはもう一度頭をスッカラカンにしてみて、ゼロから制度を再構築していく気概が必要です。通過通航で分離通航帯を設けることは制度上可能ですから、その調整が付くかどうかをやってみるとか、潜水艦にも分離通航帯を求めてみるとか、まあ、色々なことを検討してみる余地はあると思います。役所のスタティックな発想方法に囚われないようにしなくてはなりません。


 場合によっては、国連海洋法条約をベースとしつつも、それとは別個の海峡レジームを作ってみるくらいのことを考えても良いのかもしれません。米中露韓くらいとは相当な調整が必要なので、骨がとても折れる割には、実体的にはあまり身のない作業ではあるのですが・・・。


 ただ、やはり「主張できる領海を自主的に狭めている」という国の本質に関わるところには、そうであるための相当に強い理屈がなければ国民は納得しません。「海洋の自由な航行」みたいなフワフワしたお題目ではダメですね。