日韓漁業協定を書くと、自ずとこちらにも触れないといけないということで日中漁業協定です。こちらはこちらで色々と問題があります。きっかけはやはり国連海洋法条約の締結です。日韓にせよ、日中にせよ、本来であればEEZの画定交渉をやるのが筋なのですが、それをやっているといつまで経っても纏まらないので漁業関係者の利益保全の観点から漁業だけを切り出して条約を作っているということです。大体のイメージはこんな感じ です。


 こちらは自ずと尖閣と台湾の扱いに焦点が当たりますね。実はこの協定では「触れていない」のです。日韓同様に暫定水域を設けていますが、北緯27度以南は「漁業実態が複雑なため、協定の対象としない」ということになっています。何をもって「漁業実態が複雑」なのか私には分かりませんが、ともかくそういうことのようです。多分、私が想像するに、尖閣諸島が日本に帰属する場合に引かれる日中中間線と、尖閣諸島が中国に帰属する(と仮定する)場合に引かれる日中中間線の分岐点が、北緯27度以北にあるということも一因だとは思います。言い方が分かりにくいかもしれませんが、尖閣諸島の帰属が影響を与えない範囲で日中漁業協定は作られているというふうにご理解ください。なお、東経125,30以西の海域も協定の対象からは外れています。


 こちらの条約でも暫定水域は事実上、中国の独壇場です。過去の実績をベースに漁船の数を両国の委員会で決めるという言い方をよく役所はします。そして、なかなか具体的な数字を言いませんが、日本側は10隻前後、中国は16000隻程度だったと記憶しています。つまり、殆ど中国の独壇場なのです。ここまで来るとちょっとした脱力感すら出てきます。


 その他、図にあるとおり、暫定水域の北部には、協定には出てこない中間水域というよく分からないカテゴリーの水域があります。これは日韓漁業協定と日中漁業協定が重複する(可能性のある)部分なのです。蘇岩礁という、島とも言えない場所を韓国が主権主張しているために、日韓漁業協定で暫定水域を設けましたが、これを島と認めない中国はそもそもそんなところに日韓で勝手に水域を定めていること自体を認めません(当たり前です)。したがって、ここはお互いが自国の取り締まりを行う水域ということにして、殆ど具体的な取り決めもない中間水域ということで、日韓漁業協定との関係を整理したわけです(整理になってないのですけど)。


 つまりは、日中では暫定水域が中国の独壇場、それ以外の中間水域、北緯27度線以南も、自国の船のみを取り締まるということで、日韓よりもより広いエリアが日本として手を出しにくい地域になっています。ただし、日中では暫定水域内で相互の取り決めに従わず操業する中国船に対して、日本側は警告(条約上は注意喚起)ができるようになっていますので、少なくとも「あなたは違法にやってますよ」くらいのことを洋上で言えるわけです(韓国との関係ではこれすらない。)。


 まあ、この結果として、尖閣諸島周辺の12カイリ外の水域に中国漁船がいることは何ら違法でも何でもない状態になっているのです。そこは日本側の世論に誤解があって、「尖閣周辺で漁船がウロウロしていることがけしからん」となりがちですが、12カイリ内では通用する議論であっても、12カイリ外では完全に合法な状態になっています。そこが尖閣防衛との関係でなかなか難しいなといつも思います。ただの漁船だと思って放置していたら、ある時、尖閣諸島12カイリ内に入り込んできたということは大いにあることなのです。個人的には、空における防空識別圏みたいな概念って海に持ち込めないのかねと思います。明らかにこちらに入ってこようとする漁船がいたら、入ってくる前の段階で「失せろ」という措置を取るような体制が組めないかなと思います。まあ、領海内であっても無害通航権は認められますから、なかなか難しいんですけどね。


 その他にも、幾つか日中漁業協定の孕む問題点というのはあるんですけど、それをやり始めると長くなってしまうので、今日はこの程度にしておきます。なお、日中漁業協定も結果として、九州沖や北海道沖での無法な中国漁船の抑え込みには繋がっており、私は一定程度の成果を収めていると思っています。その点は強調させていただきます。