昔、外務省時代にちょこっとだけ担当していた日韓漁業協定について、また、関心を持ち始めました。理由は日本側排他的経済水域(EEZ)での韓国漁船の振る舞いがあまりに横暴すぎるということです。秘密に当たらない程度で思うところを書いていこうと思います。


 元々、古い協定ではEEZ200カイリの概念がなかったので、12カイリから外では自由に操業をやっていましたが、韓国漁船の進出がたまらんということで、日本にしては珍しく旧協定の終了を通告し、新協定の交渉に入ったというのが経緯です。終了の通告自体は協定に定められているので、何ら違法ではないのですけども、日本が二国間協定の終了を通告したケースは多分、これだけではないかなと思います。


 最終的な姿はこんな感じ です。まあ、ご想像のとおり、一番揉めるのは竹島の扱いです。ここは「条約上は」日本はよく頑張ったと思います。竹島を含む一定の地域を「暫定水域」という扱いにして、ここの操業の条件等については両国の委員会で協議するというところまで持ち込んでいます。韓国の世論がとても堅い中、あくまでも「条約上は」日本の主権を損なわないかたちで纏めきったことは賞賛に値すると思っています。


 ただ、恐らく交渉上は竹島を含む暫定水域を作る際に相当な譲歩を求められています。まず、新潟沖の大和堆のうち、日本側は4割くらいを暫定水域に含めています。この大和堆というのは比較的浅い海域で漁場としてはとても条件が良いのです。あと、上記のリンクを見ていただくと、暫定水域の中で島根沖のところがピョコンと出っ張っているところがあります。ここも好漁場でありまして、山陰の漁業従事者の中には「なんであんな不自然なかたちになっているのだ」とご不満があるというふうに承知をしています。更には、これはマイナーネタかもしれませんが、暫定水域以外の両国のEEZを区分けする線なんですが、あれは中間線ではないのです。日韓大陸棚条約の線をベースにしています。日韓大陸棚条約が締結された当時は、まだ、大陸棚の境界画定は自然延長論をベースにやっていたので、日本側にかなり押し込まれたかたちで合意しています。そういう事情があるので、暫定水域以外の部分でも若干日本に不利なかたちになっています。


 更にトリビアの世界なのですが、南部にも小さな暫定水域があります。これは何が理由かというと、韓国が蘇岩礁という水面下にある岩を「うちの領土だ」と主張していることに配慮したものです。この蘇岩礁ですけども、干潮時ですら海上に頭を出しませんので、国連海洋法条約上は何の価値もない場所です。ただ、韓国はこれを領土だと主張しており、中国との間で揉めています(日本とは揉めていません)。そういう中、まあ、日本側からすると「領土であることを認めるものではないけども、ここでガツガツ喧嘩しない」ということなんだろうと思います。ということで、おまけのように南部にも暫定水域がくっついています。


 そういった背景の下、暫定水域は条約上は両国の委員会で種々の条件を定めて、お互いが資源管理を行いながら操業していくということのはずなのですが、実態は韓国漁船の独壇場です。日本漁船は殆どこの暫定水域では操業できない状況です。日本の漁船がカゴを沈めたり、網を張ったりしても、カゴ毎持って行かれたり、網を切られたりと、それはそれはひどい状況です。政府ベースで抗議したり、協議を申し入れても、全く韓国は乗ってこず、漁業者間での協議が行われている状況です。しかも、日中漁業協定では暫定水域での韓国違法漁船が見つかったら、少なくとも日本当局は警告くらいはできるようになっていますけども、日韓漁業協定では警告すら認められておらず、外交ルートで通報するに留まります。とどのところ、韓国が好き勝手にやっているということです。


 まあ、それでも暫定水域は条約上の定めがあるので仕方ないところがあるとしても(本当は納得していませんが)、一番問題なのは日本側EEZでの韓国の違法漁船です。こちらは日本としてきちんと管理していかなくてはならない部分なのですけども、韓国漁船は自国EEZや暫定水域で相当に無茶をしてしまって漁業資源が少なくなってしまったので、日本側に違法に乗り出してきています。暫定水域と日本側EEZでの漁獲圧力の差は5倍近いと聞いたことがありますので、相当に暫定水域や自国EEZでは乱獲をしているのでしょう。


 大体、違法漁船が目立つのは島根沖あたりです。最近はどうも知恵がついているようで、韓国漁船は高いアンテナを付けて、少しでも海保や水産庁の船の電波を探知すると逃げてしまうそうです。また、沈めるカゴにはウキを付けずにソナーで探知できるようにしておき、水面上からは違法なカゴの設置が分からないようにするとか、まあ、それは悪知恵のオンパレードです。


 しかも、韓国漁船は暫定水域でも、(違法な)日本側EEZでもカニ篭、バイ篭、刺し網を放置していくので、いざ日本漁船が入っても資源状態が悪かったり、そもそも操業できないくらいの悪条件になっていたりするわけです。そもそも、日本は資源管理の観点から、EEZで刺し網のような固定式漁法を許可していません。日本が底引き網でやろうとしたら、韓国の廃棄漁具が多すぎて諦めたなんて話は枚挙にいとまがありません。境港港の写真を見たことがありますが、それはそれは膨大な韓国の廃棄漁具の山があるようです。彼らの漁具は網目が小さいらしく、混獲によって本来無駄にならずに済むはずのベニズワイガニなんかが死んでしまいます。


 今、海上警察権WTの事務局長をやっていることもあり、何が出来るかなと頭をひねっているところです。暫定水域はそれはそれであまり愉快ではありませんが、ともかく日本側EEZだけでもきちんと違法漁船を追い払えるような体制を考えたいですよね。ちなみに、日韓漁業協定の悪い面ばかりクローズアップしましたけども、イカつり漁船の灯りをGPSで調べた論文があって、それを読んでみたら、協定締結後、一定程度、韓国の漁船の傍若無人ぶりを押さえ込めていることも事実であります。協定にご尽力いただいた先人に敬意を払う観点から一言付記させていただきます。