以前から、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」に関し、特に大陸棚に関する規定について何度かエントリーを書きました。


 問題意識は、今の法律だと日本はどんなに頑張っても「中間線」しか主張できないことになる一方で、中国は大陸棚の主張では自然延長論を主張しており、沖縄トラフまでが自国の大陸棚だと主張しているという、主張の非対称性のところにあります。実は中国は他国との大陸棚紛争においては中間線論を展開しており、日本が相手の時のみ自然延長論を主張するのはただのダブルスタンダードでしかないわけけども、現在の主張の間で競うことは何となく気持ちが悪いわけです。仮に国際司法裁判所に行った時には、下手をすると中間線と沖縄トラフとの間だけが係争地域だということにもなりかねません。


 まあ、日本人は真面目なので、最後の落とし所(中間線)に最初から飛びついているわけです。そして、それが国内法にも生真面目に投影されています。私は国内法的に少し前に出た方が良かろうと思って、以前、下手くそな改正案をこのブログでも書いたことがあります。その後、そういう私の下手な案をベースに衆議院法制局の方々とも協議して、それなりに纏まったのでここで書き残しておきます。


【排他的経済水域及び大陸棚に関する法律の一部を改正する法律案骨子(案)】

一 大陸棚(第2条第1号の改正)
  大陸棚に係る海域について、我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線が我が国の基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、我が国と外国との間で合意した線及びこれと接続して引かれる政令で定める線までの海域(領海を除く。)とすること。


二 外国との間で合意した線がない場合における大陸棚の境界画定(附則に新設)

 外国との間で第二条第一号の合意した線がない場合における大陸棚は、国連海洋法条約第七十六条に規定する大陸棚について我が国が主権的権利その他の権利を行使し得ることを踏まえつつ、当該合意に達するまでの間、中間線までの海域(領海を除く。)の海底及びその下とすること。


○ 参考:EEZ法の改正部分の新旧対照表

改正前

改正後

(大陸棚)

第二条 我が国が国連海洋法条約に定めるところにより沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する大陸棚(以下単に「大陸棚」という。)は、次に掲げる海域の海底及びその下とする。

 我が国の基線から、いずれの点をとっても我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線(その線が我が国の基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、中間線(我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線があるときは、その線及びこれと接続して引かれる政令で定める線とする。)までの海域(領海を除く。)

二 (略)



   附 則

 (施行期日)

第一条 (略)

(新設)











(以下条ずれ)

(大陸棚)

第二条 我が国が国連海洋法条約に定めるところにより沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する大陸棚(以下単に「大陸棚」という。)は、次に掲げる海域の海底及びその下とする。

 我が国の基線から、いずれの点をとっても我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線(その線が我が国の基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、我が国と外国との間で合意した線及びこれと接続して引かれる政令で定める線とする。)までの海域(領海を除く。)



二 (略)



   附 則

 (施行期日)

第一条 (略)

 (外国との間で合意した線がない場合における大陸棚の境界画定)

第二条 外国との間で第二条第一号の合意した線がない場合における大陸棚は、国連海洋法条約第七十六条に規定する大陸棚について我が国が主権的権利その他の権利を行使し得ることを踏まえつつ、当該合意に達するまでの間、中間線までの海域(領海を除く。)の海底及びその下とする。

(以下条ずれ)

* 改正前の下線部分は削除部分、改正後の下線部分は新規部分です。


 これだけだと何のことかさっぱり分からないと思います。簡単に説明すると、以下のようになります。


● 今の法律:基本的には二百海里までが日本の大陸棚。ただし、二百海里を主張した結果、外国の主張する大陸棚とぶつかる時は中間線まで。ただし、別途合意がある時はその線まで。

● 私の案:基本的には二百海里までが日本の大陸棚。ただし、二百海里を主張した結果、外国の主張する大陸棚とぶつかる時は別途合意をする。その合意がない時は中間線まで。


 基本的に同じ事が書いてあります。「何だ、同じことをこねくり回してアホか」と思われるでしょう。私も「うーん、思ったほどの前進が得られてないなあ」と少し力不足を感じています。それを前提に私の意図をもう少し深掘りします。


 この改正案のポイントは、合意がない時の「国連海洋法条約第七十六条に規定する大陸棚について我が国が主権的権利その他の権利を行使し得ることを踏まえつつ、当該合意に達するまでの間、」という部分です。国連海洋法条約第七十六条は色々なことが書いてありますけども、基本的には「大陸棚は二百海里まで主張できる」というところからスタートです。そこがスタートであるという姿勢をちょこっとだけ見せるところが、この案の一番のポイントです。


 まあ、もっと条約に詳しい方は、第七十六条10に「この条の規定は、向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における大陸棚の境界画定の問題に影響を及ぼすものではない。」と書いてあることに気付くでしょう。したがって、ベースにならない規定を「踏まえつつ」としているわけでして、結局はガチガチと法的に詰めていくと、この私の改正案はあまり意味がないのです。


 ただ、その第七十六条10の規定も込み込みで「踏まえつつ」でいいのです。私の基本的な考え方は、謙虚に中間線までがうちの権原の及ぶ範囲だとしている今の法律のあり方を少し変えたいということです。


 実際に外務省の国際法局長は平成20年2月28日の予算委員会第三分科会において、自民党の鈴木議員の質問に対して以下のような答弁をしています。


○小松政府参考人
(略)
 国連海洋法条約の関連規定に基づきまして、一言で申しますと、大陸棚それから排他的経済水域につきましては、境界が画定していないという状況のもとでは、二百海里まではそれぞれの沿岸国に権原がある。権原というのは、英語でタイトルという言葉を訳したものでございますが、権利主張の根拠というようなことに理解をしております。
 したがいまして、日本政府といたしましては、この境界画定が行われていないという現状のもとにおいて、大陸棚にいたしましても、排他的経済水域につきましても、日本が権原、タイトルを持っております二百海里のところまでは日本の権利主張の根拠があるんだと。中国側も、その根拠があるということは認めざるを得ませんので、まさにそういう意味で、双方の基線からはかって二百海里、これは四百海里未満でございますので重複してございますので、その間が係争水域というふうに日本政府としては考えてございます。


 ここまで政府参考人答弁で言っている以上は、国内法でもこの考え方を反映させないというのはおかしいでしょう。そこで、私がもがきにもがいて考えた案が上記のものです。


 今日のテーマはちょっと小難しかったですね。繰り返しますが、これは本当に小さな前進にしかなりません。論者によっては「この程度のことで法改正なんて意味ないだろう」ということになるでしょう。しかも、現場で起こっている事態にはあまり影響はないでしょう。


 ただ、これは中国に対する相当に強いメッセージになるでしょう。この機微、ご理解いただけますと幸いです。