IMFのドミニク・ストロスカーン(DSK)がそろそろ来年のフランス大統領選挙を見据えて退任するだろうという見通しです。遅くとも社会党の予備選挙登録の期限である7月13日までには退任するとされています。まあ、そうだろうなと思います。現時点ではありとあらゆる世論調査でストロスカーンはすべての相手に勝てるということになっています。社会党内での予備選挙ではオランド元第一書記、オブリー第一書記、ロワイヤル前回大統領選候補、すべてに対して優位に立っています。また、サルコジ現大統領、ド・ヴィルパン元首相、ボーロー元環境相あたりにも優位です。最近、伸長著しいマリーヌ・ルペンにも勿論優位です。これだけ待望論があるのに目指さない方が変です。


 DSKの後任については、まあ、普通であれば欧州からということになります。ゴードン・ブラウン前英首相という名前が挙がっていましたけども、今のキャメロン首相は「何処か別の地域から」みたいな言及をしたうえで否定していました。その他、色々な候補が上がっていますが、意外にアジアの可能性を語る人が多いのに驚いています。中国、インドがアメリカに対して相当にアプローチをしているという報道を見ました。特にインドからは、たしかスバラオ中銀総裁を始めとする具体的な名前まで出ていました。恐らく、中国はその辺りは慎重なので名前の出し方も慎重でしょうけども動いてないわけではなさそうです。その他、シンガポールのシャンムガラトナム財務相、デルヴィス元UNDP総裁みたいな名前もあるそうです。


 折角ですから、日本も黒田アジア開発銀行総裁あたりをこっそりと擁立に回れないのかなと思います。勿論、第一候補ではないでしょうけども、色々なパワーバランスの中でスルッと入る可能性はあるのではないかという気もします。「中国だとちょっと露骨過ぎて嫌ですよね」、「かといってインドというのだと対中関係で収まりが悪いでしょう」とか適当なことを言いながら、ポストを取りに行けないのかなという考えが頭をもたげます。日本はこの手の国際機関の長については、「目指したからにはメンツにかけて取りに行く」というのが常でして、それはそれでいい文化ではあるのですが、逆にそれが「確たる自信のないものはやらない」みたいな姿勢になります。それはそれで残念です。もっと「ダメもと」を許容する器量がすべての関係者に必要です。


 あと、今からフランス大統領選挙の予想をするのはあまり適当ではないかもしれませんけども、私はDSKは相当程度大統領に近いところにいると見ています。世論調査では「仮に右派のド・ヴィルパンや中道右派のボーロー元環境相が大統領選挙から撤退しても大してサルコジにはプラスがない」ということのようです。そこから読み取れるのは、サルコジは相当に右傾化していると受け止められていて、むしろルペン一族と競い合うところあたりにいるのではないかということです。たしかに私の温度感から言っても中道右派はサルコジの得意とする勢力圏ではありませんし、ド・ヴィルパン的ゴーリズムもちょっとサルコジとは相いれません。


 このまま行くと、社会党の予備選挙ではDSKが勝つでしょう。この5年のIMFでの経験が彼には相当にプラスのイメージを与えています。国内で燻っていたその他の社会党の闘士では太刀打ちできないような気がします。そして、そのままDSKは少なくとも大統領選挙の第一回投票では上位2位に入れるでしょう。さて、第2回投票の時に誰が相手になるかということがとても興味深いのです。今の世論の感じから行けばサルコジではなくて、マリーヌ・ルペンの可能性が相当にあります。2002年にシラクとルペン(父)が第2回投票で戦った時の再現みたいなものです。こうやって見てみると、フランスの極右はかなり明確な市民権を得ていると見ることができます。単なる社会に対する漠然とした不満の表明の捌け口ではなく、もう少し立ち位置がはっきりしてきています。それはそれで怖いことです。


 そういう中、サルコジは相当に焦っているはずです。今は何でもいいから「功」が欲しいはずです。国内的だけでなく、国際的にもともかく「功」を焦っています。だからこそ、来月のG8サミットはサルコジ・フェスティバルに演出したいという思いがあるでしょう。そこには隙が必ずできますから、そのサルコジの下心をくすぐりつつも、いいとこ取りばかりはさせずに日本として実を取りに行くような仕掛けをすると面白いと思うのですよね。


 最近、個々のテーマについて詳しくないので何とも言えませんが、フランスあたりが日本に要求している「非関税障壁の撤廃(恐らくは政府調達)」に程々に応じてあげることで実を取らせつつ、サルコジを降ろすことを通じて、日EUの自由貿易協定の交渉開始を取りつけさせるみたいな大がかりなことができればいいですよね。その他、原子力開発の安全ルール作りについても、日本は実が取れる立場にあります。私ならば「核兵器保有国にとって、論外というわけではないけども、要求される透明性の高さ等で負担がちょっと嫌だなあと感じる」くらいの微妙な線を狙って提案をすればいいのだろうと思います。今の日本がその「ちょっと嫌だけど面と向かってノーと言いにくい」ものを提示する時、断れる国はないでしょう。そのたかの括り方ができればベストです。まあ、それが今のうちの宰相にできるかは分かりませんけど。


 DSKの話からスタートして長くなりました。まあ、異論反論お待ちしております。