いわゆる難病といわれるカテゴリーの疾患が存在します。パーキンソン病、骨髄線維症、特発性間質性肺炎・・・、数え方にもよりますが、5000-7000とも言われています。その中で「特定疾患」というものについては医療費支援があります。これは現在は56疾患です。この56疾患で患者総数は概ね65万人です。潰瘍性大腸炎、パーキンソン病が多く、それぞれ10万人程度だそうです。


 この難病については、ざっくりとしたイメージとしては①研究奨励分野、②臨床調査研究分野、③(②の中で)特定疾患治療研究事業というふうになっていて、①に入っているものが昨年度で214、②が130、そして上記のとおり、医療費支援の対象となる③が56です。つまり、何の研究の対象にもなっていないものが大半なわけです。そして、それらの疾患は症例数が非常に限られていて、殆ど知られていないものです。


 私はある事をきっかけとして、ある疾患について難病に対する医療費支援ができないかということで厚生労働省から聴取をしてみました。そのヒアリングを踏まえつつ、このエントリーを進めていきます。


 元々③のスキームはスモン薬害に対する治療研究にご協力いただき、そのご協力に対する医療費助成という感じであったものでした。それがその後、他の疾患にも拡大されていたということです。当初は財政的にもそれで上手く回っていましたたが、その後認定される疾患が増えるに伴い、財政的な問題が生じるようになっています。


 ここが驚きだったのですが、この難病に対する医療費助成は、あくまでも「研究事業」の中でなされているものだということです。社会保障の観点からではありません。しかも、この助成の費目は「科学技術振興費」であって、予算上は「投資的経費」となっているのです。投資的経費ということは公共事業と同じ扱いです。投資的経費は予算削減の際、シーリングがかかり、一律削減対象となる種のものです(社会保障経費はシーリングから外れることが通常。)。


 現在、医療費助成の総支出額は1200億円で、これを国と地方で負担しています。研究事業ですから、国は「補助金」というかたちで地方に280億円をお渡ししています。これは全く法定されておらず、補助金要綱で「国の予算の範囲内で、医療費の1/2を補助」というかたちになっているため、国の予算査定で認められた280億円以外の残りの分は地方負担となっています。(現実的にはあり得ない話ですが)、地方が「国が1/2負担しろ。地方は1/2の600億円しか負担しない。」と主張した時、国としては何も言えないということです。研究助成としての補助金の扱いである限りは、こういう結論になるのは当然ですが、それにしても驚きでした。


 この仕組み自体のそもそもの成り立ちが研究事業なので、「研究奨励分野」の対象疾患として選ばれるのはそれなりに研究体制がしっかりしている、又は研究体制が構築できそうなものということになります。「研究奨励分野」事業は制度が立ち上がって5年なので、まだ研究の推移を見つつ今後を判断するようなところが多いです。「臨床調査研究分野」について言えば研究班が立ち上がって、相当程度に研究が進んでいるものです。その中で、更に治療が困難で、医療費が高額になるものについて医療費助成をしているということです。実情を見れば、そんなに簡単に切り分けられるわけではありませんが、制度上はそうなっているということです。


 患者数が少なく、研究者が名乗りを上げないような疾患についてはいつまで経っても、この枠組では救済されないということではないのか、という疑問は誰もが持つでしょう。しかし、それ以前の問題として、この研究事業のみで難病で苦しむ方への支援を行うということは難しいのではないかと私は思いました。同様に、この研究事業の予算を大きく拡大できるかということについては若干の疑問符が生じました。やはり、真正面から社会保障の枠組の中での取組を強化しないといけないはずです。


 ここからは予算とのご相談になるわけですが、厚生労働省でも保険を担当する部局、更には財務省主計局厚生労働係は社会保障でこの難病の医療費対策をやることに非常に慎重だと思います。非常に不謹慎な言い方をすれば(注:私がそう思っているということではありませんし、誰かがそう話していたということでもありません。あくまでも想像です。)、研究事業に対応を押し込めておく限りは医療費負担を56疾患に限定することができる一方、社会保障での対応ということになると「パンドラの箱が開く」というふうに考えたとしても驚きではありません。ただ、この難病対策としての医療費補助を社会保障の枠に移していこうという議論は、厚生労働省内で局際的に議論をしているわけではないようでした。


 何はともあれ、今回の驚きは「難病対策の医療費補助が投資的経費であった」ということです。これはスモンの歴史的経緯から出来た制度であるとはいえ、あまりに不適切です。今後の大きな、大きな課題とします。