チュニジアのベンアリ政権が崩壊した話は既にどんどん報道されていますね。


 ベンアリ政権は強権政治でしたが、欧米の寵児でもありました。欧州への輸出を中心に着実に経済成長をしていて、一見政権が安定しているので、欧米からすると可愛い政権でしたね。特に周辺にリビアのカッザーフィみたいなとんでもないのがいたり、アルジェリアのように政権に一定の不安定さを抱える国があったりするのと比すると、ベンアリ政権は安定していて、成長していますからね。


 ただ、私は21世紀に入らんとする前後くらいから「こうなってくると、大体ろくなことがない。」と思っていました。きっかけはジャーナリストのタウフィク・ベン・ブリックを巡る動きでした。政権批判を繰り返すベン・ブリックを投獄、国外追放等して、人権団体やReporters sans frontieres(国境なき報道人)から非難の対象になっていました。「こういう反体制のヒーローが出てくると危ないんだよな。」と思ったものです(あれから10年かかりましたが)。2005年に、ITU(国際電気通信連合)の世界情報通信サミットがチュニスで開催された時に、内海事務局長(ITUのトップ)の補佐官の方と「あんな報道の自由のない国で情報通信サミットなんて、悪い冗談ですよね。」と言いあったのも懐かしいです。


 次の大統領選挙ではベン・ブリックが出馬すると言われています。現在、大統領役を務めている下院議長やガンヌーシ首相はもう退場でしょうね。ベン・ブリックに行政能力があるかどうかは分かりませんが、個人的にはベン・ブリックのようなヒーローのカリスマで統治していくのがいいのではないかと思います。


 ベンアリ政権が潰れた原因の一つに「ヨメが悪い」というのがあるように思います。奥さんのレイラの実家はトラベルシという有力な一族でして、このトラベルシ一族が政権で幅を利かせていたのです。ベンアリが出てくる映像を見ていると、奥さんがダンナよりも前に出てきているシーンを何度も見ます。多分、恐妻家だったことでしょう。アフリカでは「ヨメの評判が悪いせいで政権が評価を落とす」というケースが多々あります。


 アフリカではネポティズムが文化の一部として根付いていますが、そういう中であっても「虎の威を借るキツネ」が跋扈しすぎると、やはり常識的に国内の不安に繋がるわけです。亡命する際に1.5トンの金を持って逃げたという噂もあります。チュニジアの中銀は「ロンドンの銀行に預託してあるだけ」と言い訳していたような気がしますが、どうなっているのか興味深いです。


 まあ、そんなことはともかくとして、今回の政変で興味深かったのは「動きが早かった」ということです。きっかけとなったのは「地方都市で野菜売りの青年が警察にしばかれて、結果として焼身自殺を図った」ということです。それがたしか12月の中旬くらいじゃなかったかと思います。私も報道を見ながら「ああ、またいつものようにチュニジアでゴタゴタをやっとる」と思っていましたが、それからベンアリ亡命まで1ヶ月。あまりのスピードに私もついていけませんでした。


 その原動力になったのは勿論、インターネットです。メール、ツイッター等で情報を共有しあいながら、デモの動きが地方からチュニスに燎原の火のように広がっていきました。あれよあれよという間に、気が付いたら動きは覆せないところまで来ていました。


 ここで私がちょっと疑問に思っているのは、ウェブでどんどん膨れ上がった若者を中心とする勢力とイスラム主義者との間には何の繋がりもないのだろうかということです。イメージ先行型で言えば、その二つは完全に明別されるべきものです。ただ、何となく私の直感で「あのチュニスのデモの中ではイスラム主義者が一定程度入りこんで役割をはたしていたのではないか」という気がしています。ここは非常に判断が分かれるところですが、ジャスミン革命にどの程度イスラム主義者が入り込んでいたのかということは、これから隣国のエジプト等を見て行く時の最大のポイントだと思うのです。


 チュニジアの影響を一番に受けるのは、間違いなくエジプトです。まず、王制の国は事情がかなり異なるのであまりアナロジーを探さない方がいいでしょう。モハメド6世が統治するモロッコはチュニジアがああなったからという事実のみを以て、政権の不安を感じるところまではいかないでしょう。隣国のアルジェリアやリビアは、詳しくは書きませんが、それはそれで歴史的に、社会的に特殊事情を抱えているが故にアナロジーは低いです。やはり、同じく長期強権政治で民衆の不満が蔓延しているエジプトでしょうね。


 エジプトはアメリカの寵児のようなところがあり、軍事援助を山のように貰っています。世界で一番大きなアメリカ大使館はエジプトだと聞いたことがあります。そんな国がガタっといけば、アメリカの中東政策は根本から覆されます。しかし、あの国はイスラム同胞団を始めとして、イスラム主義の強い国です。そういう国で、イスラム主義者とインターネットが密接に繋がって動きを始めてきたらどうなるだろうか、そんなことを考えます。


 アメリカは露骨に情報の自由を制限を主唱することはできません。クリントン国務長官のコメントも「インターネットの自由性」とエジプトの治安維持との間で揺れ動いているように思いました。結果として、良い解はなさそうで、民主主義とか多元性の重要性をお題目のように訴えるしかないように見えて仕方ありません。これは難しいところです。


 インターネットとイスラム主義の繋がり、これが現在、どの程度進んでいて、進んでいないのか、その怖さというのがリアルに見えるだけに、これからの中東情勢を見て行く上で重要なポイントになっていくと危機感を持っているところです。別に何の解も提示できないのですけども。