ある外交に強い議員と話をしていた際、「沖ノ鳥島は今、東京都が一生懸命施設整備をやって、漁業も研究もできるようにして、島としてのポジションを強めている。あれをもっと進めなくてはならない。」と言われました。ちょっと国際法の理屈とは若干の乖離があるので訂正をしておきました。なお、以下の記述においては、いかなる意味においても現在の東京都の取組を否定するものではなく、それはきちんとやるべきだと私は思っていることを申し添えます。


 まず、根本のところで、沖ノ鳥島が「(200カイリや大陸棚を主張できる)島か」という問題があるのです。「島と呼んでいるんだから島だろう」と思われるでしょう。世間的にはそれで正解です。しかし、国際法上はちょっと違っていまして、国連海洋法条約第121条第1項では「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう。」とある一方、第3項では「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」となっています。


 ちょっと複雑なのですが、まず、沖ノ鳥島が「日本の領土か」ということになると、これは間違いなく日本の領土です。したがって、領海を持ちます。これを争う国は世界にありません。では、「島か」ということになると、第1項を読む限りは「島」です。では、「「200カイリや大陸棚を主張できるか」となると、第3項では「島のカテゴリーの中でも、人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は別扱いで200カイリや大陸棚はなしよ。」ということになっています(論者によっては「島」と「岩」は完全に別カテゴリーだと言う人もいないわけではありませんが、まあ、普通に読めば「島」のカテゴリーの中の一形態として「岩」があるとすべきでしょう。)


 それで、この「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」という言葉ですが、ここでも「『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない』ものを岩と呼び、別扱いにする」のか、それとも「島の中に『岩』と言う類型があり、その中でも特に『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない』ものを別扱いにする」ということなのか、ここは争いがあり得るでしょう。


 いずれにせよ、この「島」や「岩」については、すべて水面上にある部分だけが判断の対象となります。満潮時に水面下にある部分は考慮材料にはなっていません。更には周囲にどんなに構築物を作っても、そのベースとなる部分が満潮時に水面下であれば、あまり島としての権原強化(特に200カイリや大陸棚を持てる「島」としての主張)にはなりません。


 中国が沖ノ鳥島を「岩」と言って200カイリや大陸棚を否定していることに対抗するために、東京都があれこれと構築物を作っていることは、この海洋法条約との関係からだけの判断では「あまり意味がない」と思います。様々な構造物を作ったからといって、海洋法条約上、200カイリや大陸棚を主張する根拠が強められるわけではないのです。


 そこでいつも私が思うのは、「気が遠くなるかもしれないが、どんどんサンゴを育てていって、満潮時に水面上に出る部分が劇的に増えていくこと以外にない」ということです。条約の視点からだけで言えば、200カイリや大陸棚への主張強化という観点からは、多分、それが正解だろうと思います。私がサンゴの生態学がよく分かりませんが、育ちのいいサンゴをどんどん育てていけないかなと思います。


 一見、アホっぽい話ですけど、私自身は結構真面目です。