APECでの日中首脳会談については、皆様、それぞれ色々な思いがあるでしょう。「たった22分がナンボのもんだ」、「紙を見て話すべきではない」・・・、まあ、そんなお叱りを受けています。それはそれで理解いたします。


 その中で、私がとても印象的だった二つのことを書き残しておきます。これは昔、外務省にいた者として「おやっ」と思ったことです。


● 胡錦涛の(作り)仏頂面

 温家宝もそうでしたが、ともかく胡錦涛は「オレは絶対にここでは仏頂面をするのだ」と決意したように表情のない仏頂面でした。あれを見て、私は「ああ、中国内部で対日政策で相当に権力闘争が行われているのだな」ということを思いました。

 胡錦涛は決して対日強硬派ではありません。恐らく、中国政界の中では穏当な位置にいる人間のはずです。ただ、中で保守派、軍といった組織から突き上げが激しいのでしょう。少しでも笑みを浮かべようものなら、即国内で胡バッシングが起こるような状態にあるような気がします。

 日本は報道の自由がある分、そういう内紛が分かりやすいのですが、あの国は報道統制が効いています。しかし、中国の権力闘争が日本のそれより緩いはずがありません。我々の目には決して見えてこない激しいせめぎ合いを伺わせるあの仏頂面でした。

 そういう前提に立ち、現状で何かやれるとすれば、「そういう中国国内の権力闘争を上手く利用するようなしたたかさ」があっても良いのだろうと思います。やり方は難しいのですが、見た目は感情的な中国批判を一切せず、極めてポジティブな、しかも明るいトーンで「言うべきことを言う」という演出が上手いような気がします。「暗いトーン」だったり、「激昂調」だったりする方が、逆に飛んで火に入る何とやらになるような気がします。この難局にちょっとバカっぽい提案に聞こえるかもしれませんけど、多分、それが一番中国の国内的には辛いはずです。


● アメリカからの配慮

 これは上手く説明できないのですが、今回のAPECを通じて、アメリカは相当に日本に気を遣ったという印象があります。何を以てそう言うのかと問われると難しいのですけども、ともかく、今回のAPECを通じて、アメリカは日本の対中政策を含むすべての面で温かめのメッセージを出してきたように思えてなりません。

 対中政策の投影先としての日本なのか何なのか、私にはよく分かりません。オバマはインドで安保理常任理事国入りへの支持を言い、日本でも(これまでも言ってきたポジションではありつつも)同じことをやりました。たしかに継続性の観点からは新味はありませんけども、別に言いたくなければ言わなくても済む話をここで言ってきたことには何かがあるように思えます。その他にも、普天間だ何だと頭の痛い懸案がある中で、この配慮振りは特筆すべきです。

 なお、私にはその背景に何があったのかは分かりません。


 ということで、あまりメディアには取り上げられない視点で書きました。なお、党派色なく書いてみたつもりです。