久しぶりに外交ネタです。


 この数週間、突如、TPPという名前が有名になりました。Trans-Pacific Partnershipで「環太平洋連携協定」というものです。これは域内の高度な自由化を目指すもので、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヶ国でスタートしました。オーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナムが加わり、マレーシア、カナダ、コロンビアが入る意思を持っているようです。


 永田町的視点から話すと、この件で動きが早かったのが農林水産省でした。「完全自由化を強制され農業が崩壊する」という大キャンペーンをやりました。これで与党議員の頭づくりがかなり進んでしまったところがあります。その後に経済産業省が別の視点からの話を持っていっても、もう既に「反TPP」で頭が出来てしまった新農林族を中心とする議員には懐疑的な目で見られるだけでした。交渉の実相はそうではないんですけどね。


 TPPの参加云々について、党内で色々な議論を行いました。その中で認識が深まっていったことは有意義だったと思います。しかし、何処でどうなったのか、最後は政府に対する提言の細かいワーディングを皆でやっていました。「国会議員が50人以上集い、こんな細かい一言一句を詰めていく作業が民主党が言う政治主導なのか?」、そんな思いが拭えません。すべての会議に出たわけではありませんけども、違和感とやるせなさが私の中には残っています。


 このTPPについては、私は非常に単純に考えることにしています。以前も書きましたとおりですけども、もう一度頭の整理として書いておきます。


● 交渉くらいやればいい。

● 相手にも攻めどころ満載。

● 俺がルールを作るとの気概を持つ。

● 農業にも手当はきちんとする。

● それでも折り合えないなら出ていく。


 これだけです。私は党内のプロセスで、長い提言を議論するのでなく、これくらいのパシッと分かりやすいものをベースにやればいいと思っていました。提言となったA4で5頁のペーパー。正直なところ、私ですら読むのが億劫になるものです。文章は長くなればなるほど、ケチは幾らでも付けられます。そういうものをベースに党内取り纏めプロセスをやったこと自体が変な感じがします。


 まず、「交渉くらいやればいい」、当たり前のことです。交渉入りに際して、色々無理難題を付けられるのではないか、という恐怖感があるようですが、それが嫌ならそこで出ていくも良しです。「いつでも出ていける」という当たり前のことが共通認識になりませんでしたね、党内議論では。何度も「そんな交渉から出て行くなんてことをしてもいいのですか」と質問されました。国際交渉に対して、「相手国のあることですから穏便に」みたいなナイーブな考え方があるように思いました。


 「相手にも攻めどころ満載」、これも自明のことです。マレーシアなんてのはあれ程「no good」なものが多い国も珍しいくらいです。投資自由化なんて言えばギャーーッと叫んでくること確実です。そもそも、ルールから貿易から完全自由化がほぼ可能なのはシンガポールだけです。アメリカは砂糖や繊維の貿易自由化は絶対に不可、オーストラリアとて決して自由貿易を純粋に推進している国とは言えません。国が広いことで優位性のある部分で攻め込んでいるだけです。その他もベトナム、チリ・・・、それはそれは「no good」をたくさん抱えています。そうやって考えると、シンガポール以外は攻めどころ満載と言っていいと思います。


 あと、日本はどうも「ルールを押しつけられる」というマインドが非常に強いですが、なんで「俺様がルールを作る」くらいの厚かましさを持たないのか、不思議でなりません。国際ルールは何処か天から降ってくるものではなく、自分たちでつくるもの、その当たり前の認識を持たなくてはなりません。「俺様がガンガンかき回してやる」と思うべきですね。言い訳がましく言うからダメなんです。無理筋のことを胸を張って言ってかき回す、アメリカや中国、更にはEUなんてのはそんな輩ばかりです。その相場観が多くの議員に欠けていたように思います。


 「農業への手当」については別途稿を改めることとして、最後に「それでも折り合えないなら出ていく」、これも当然のことです。アメリカを見てください、交渉で偉そうにしておきながら最後、妥結に加わっていないものがたくさんあります。それでいいのです。「国際社会で後ろ指を指されるのでは?」、いいじゃないですか、それくらいのことは。それくらいの気概がないのなら、そもそも鎖国でもすればいいのです。もし、そこで国会(の反対)をスケープゴートにしたければすればいいのです。


 ということで、当たり前のことを当たり前に書きました。


 もっと極論すれば「もはや、農業はメインフロントではない」とすら言えます。今回の党内プロセスで最大の違和感があったのが、「農林水産業でのマイナスの数字」と「産業でのプラスの数字」を並べて比べてそれで判断していることです。「おい、判断材料はたったそれだけか」と思いました。完全にTPPの意味合いを勘違いしているとしか言いようがありません。もう日本の農業市場を狙っている国はそれ程ありません。むしろ、交渉のメインフロントはそこではなくて、ルールの世界でしょう。党内の議論で「韓国はコメ以外の農業で譲歩して、韓国の自動車、電化製品の自由化を勝ち取った」と言われていますが、それは真実のほんの一部でしかありません。韓国は危険物、薬品、医療機器等の基準認証のところでベタ降りしており、交渉妥結に際してはそこがとても大きかったように私は思います。


 日本との交渉でも実は一番大きいのはそこです。だから、一番慌てふためかなくてはならないのは農林水産関係ではなく、厚生労働関係ではないかとすら思います。説明の場に厚生労働省は出てきませんでした。「こりゃ、国際的な相場とここの議論には相当な乖離がある」、そう感じました。


 最後に一言。日本は国際条約をとてもありがたがります。それは正しいことです。国際的な信義を損なってはなりません。ただ、それを大前提にした上で、大胆に言えば「たかが条約」なんです。かつて条約課課長補佐をやっていた人間のフレーズとしては不謹慎極まりないと思いますが、少したかを括って「たかが条約じゃないか、国内に不都合があればどうにでもしてやる」というふうにすればいいだけです。このTPPは最終的には条約になりますけども、それを金科玉条にしなくていい、そういうことです。