今回の事業仕分けの中で、私がちょっと拘りを見せたのが、公共事業における「需要予測」や「費用便益分析(B/C)」についてのところでした。どんな公共事業であっても、ここがおかしいと本来必要性が疑われる事業が行われていくことになるわけですから、徹底的なチェックを入れるべきだと私は思っていました。


 公共事業をやる場合、まずは需要予測をやります。そして、その需要予測を踏まえて便益(benefit)を計算して、その事業に要する費用(cost)を比較して、その比率が1を超えることが事業実施の最低条件とすることです。1を超えるということは、とどのところ便益が費用を超えるということです。


 私の問題意識の中心のところは「その計算や決め方は改善の余地があるのではないか」ということですが、それとは別に「そもそも、B/Cが1を超えたからといって事業をやるべきなのか」ということがあります。国土交通省の資料では「B/C分析をしたものの内、事業化しなかったものはない」ということでして、つまりは足切りにすらなっていないわけです。そういう中では「B/Cが1を超えていても、事業を実施しない」ためのメカニズムも必要だと思います。まあ、今回はヒアリングの段階ではそういう議論がかなりなされましたが、本番ではありませんでした。


(注:私は費用と比較するのは便益ではなくて、税収とした方がいいのではないかとすら思います。勿論、税収に跳ね返りにくい災害対策等は別途考えるべきですが、基本的には国家財政の収支をベースに公共事業を考える発想があっていいと思います。)


 そういう問題意識をベースに、私の個人的な責任で事業仕分けにペーパー を提出しました。これは事前にメンバー全体で合意を得たものでもなく、あくまでも評価者の一員としての私が議論の土台として出したものです。構成としては「横断的な論点」と「事業毎の個別論点」になっています。実はこの「横断的な論点」は、特別会計で行っている直轄事業だけでなく、すべての公共事業にあまねく適用されるべきものです。ということで、私の思いを少し語らせていただきます。ナンバリングはリンク先のペーパーに一致しています。


Ⅰ.(1) ここで言う事業間の不整合とは、例えば鉄道、道路、航空、海運といった交通網の間で調整が図られないまま、需要予測がされていたことを指します。また、二重カウントとは同じ旅客、同じ貨物を異なる需要予測の中でカウントしていることを意味します。これらを排除するための事業横断的な需要予測計算システムを作るべきということになります。また、第二文は、例えば道路網が整備されれば海運にマイナスの影響が出るだろうから、そのマイナスはコストとして計算しなさいということです。この辺りがないから、どんどん需要予測が積み上がって総体として非現実的なことになるのです。


(2) 分析に出てくる便益を見ていると、非常に広範な便益が取り入れられていて、例えば「道路が整備されることによる精神的な安心感」みたいなものもあります。本来、経済学ではピグーが分析したような「外部効果」を考慮に入れるべきだとされますが、関連性の弱い外部効果の取り込みは分析を歪めます。ということで、ちょっと冷たいのですが、直接的な便益で、かつ貨幣換算できるものだけを便益として入れるべきという提言をしました。経済学的には争いのある指摘であることは分かっています。


(3) これは特に港湾で顕著なのですが、公共事業で整備することの便益が特定の者に偏る時は特別の考慮が必要だろうということです。そういうケースでは、そもそも公費負担の度合いを減らし、事業者負担を増やす等するのが筋でしょう。


(4) 感度分析とは聞きなれませんけど、これまでB/C分析で大きめに見積もり失敗した案件があることから、やはり色々な指標を少なめに見積もることが適当だろうと思います。これから人口が減る、経済がどうなるか分からないということですので、悲観的な前提で予測してもある程度の便益が見込めることが必要だと思います。


(5) ここは私がとても拘ったところです。反対の意見もないわけではありませんでしたが、私が強く主張して入ったアイデアです。端的に言えば「意思決定者は責任取れ」ということです。特に政務三役です。これぞ「政治主導」だと信じています。実はここが「一番カネを掛けずに公共事業の適正化を図ることができる」のではないかと思っています。public pressureの力がどれくらい働くかという判断になるわけですが、特に将来のことが気になる政務官クラスの心理に大きく働きかけが効くだろうと思います。


(6) B/C分析では外部評価を入れることになっていますが、どうもこれがチェック機能をどれくらい果たしているかが疑問なのです。同じ大学の同じ学部で同じ学科のメンバーからなる閉鎖的なギルドの中で、すべてのサイクルが回っているのではないかと疑わしくなることがあります。独立性の確保と実質的なチェック機能の担保ということをやるべきということです。


(7) 一旦事業が始まると、費用が上ぶれしてもそのまま走っていくことが多いです。そこをきちんと検証する仕組みづくりをしないと、漫然として事業が続いていくことになります。まずは透明性だけでもきちんと確保し、分析していくことが必要ですね。


(8) ここは同僚の花咲議員が指摘していました。残念なことですが我が街の北九州空港は、大きく需要予測と実態が乖離しました。予測した乗降客の半分しか、現在では実現できていません。その需要予測を立てたのが(財)運輸政策研究機構でした。しかし、今検討されている福岡空港の第二滑走路の需要予測を立てているのが同機構です。それはさすがに「ちょっと違うのではないか」と誰もが思うでしょう。そういう指摘です。


(9) こういった話はできるだけ早く予算要求レベルで反映させるべきという当たり前の指摘です。


 その後に続く、個別事業における指摘は上記の中から派生しているものが大半です。あえて言えば、治水勘定におけるB/Cは水系毎に立てていて、個別事業でどの程度の便益があるのかが判断できないという点が特筆されます。つまり、あのスーパー堤防によって個別にどの程度の便益が出るのかということは、実は分析対象になっていないのです。


 事業仕分けの後、あちこちで批判されています。「何の根拠もなく、予算だけ削るのは不見識」みたいな指摘もあります。私は少なくとも公共事業については「何の根拠もなく」はやっていないつもりです。後の判断は各位にお任せいたします。