Ⅰ 横断的な論点
(1)需要予測や便益の整合性確保・重複排除
 需要予測やB/C分析における便益について、事業間の不整合や二重カウントを排除するため、事業間の需要推計手法の統一を急ぎ、これを23年度予算編成に反映させるとともに、各事業横断的に需要予測や便益を把握する仕組みを早急に実現する。
また、過去に整備した施設や他の交通機関等に及ぼす需要減や便益低下の影響をコスト(マイナスの便益)として分析に反映させる。


(2)便益算定の客観性向上
B/C分析の客観性を確保し、希望的観測を排除するため、便益については、利用者・受益者等の直接的な便益であって、貨幣換算手法が十分に確立されたもののみを算入することとし、経済波及効果や外部経済効果などの間接的な便益や、貨幣換算手法が確立されていない便益は算入しない。


(3)便益が特定の事業者に偏る場合の取扱い
 専ら特定の事業者の輸送ニーズに応えるための施設整備など、特定の事業者が直接的な便益の大部分を受ける場合には、当該事業者の受益分を除いた便益を用いた分析をあわせて行い、その結果に応じて他施策による代替等を真剣に追求する。


(4)感度分析の具体的活用
 要因別(需要、事業費、事業期間等)の感度分析を必ず実施し、下位ケースでB/Cが1を下回る場合は、不採択(中止)とするか、事業内容の見直しにより下位ケースでのB/Cを1以上とした上で暫定的に着手(継続)し、次回の再評価時に改めて取扱いを判断することとする。


(5)意思決定者の明確化
 需要予測や、B/C分析の意思決定に関わった者(担当政務三役、主管局長、主管課長及び外部委託先)を公表資料において常に明らかにし、将来的な検証を可能とする。また、当該資料については文書保存期間を現在より長くし、可能な限り後世の検証に資することとする。


(6)外部評価の充実
 分析手法や個別事業の分析結果についての外部評価の実効性を高めるため、第三者委員会について、
① 委員の公募化等による独立性・中立性の強化
② 審議対象とする個別事業の基準の明確化・範囲の拡大及び審議内容の充実
③ 審議過程の情報公開の徹底
④ 複数案の検証
等の見直しを行う。
 さらに、個別事業の分析結果について、外部機関(民間シンクタンク等)によるサンプリング調査(抜き打ち検査)を実施し、その結果を公表するとともに、以後の分析に反映する。


(7)予測と実績の乖離状況の把握・検証
 継続事業については、B/C分析における費用を予算要求にあわせて毎年度再計算し、前年度から上ぶれした場合には、その検証結果とともに公表する。
 また、再評価や事後評価に当たり、需要予測やB/C分析における便益が前回評価時から大きく(-10%~)下ぶれしたり、費用が大きく(+10%~)上ぶれした事業については、その要因を第三者委員会等において詳細に分析し、結果を公表するとともに、以後の分析に反映する。その際、(5)で公表した過去の意思決定者を改めて明示する。
 特に、上記の詳細な分析の対象となるケースが多発(各年度の評価件数の半数以上)する事業分野については、需要予測やB/C分析における便益の分析手法の見直しを速やかに実施する。


(8)需要予測調査等の外部委託のあり方
 過去に需要予測調査を受託し、その結果が実績値と大きく乖離したものがある団体(公益法人、民間シンクタンク等)については、今後の調査の委託先選定にあたり考慮する(評価ポイントの引下げ等)。


(9)B/C分析の厳格化の予算総額への適切な反映
 以上に掲げる需要予測やB/C分析の改善の取組及び以下に掲げる勘定ごとの改善の取組を急ぎ、23年度予算編成から可能な限り、予算総額の縮減・合理化に反映する。


Ⅱ 勘定ごとの個別論点
【治水勘定】
○ 河川事業、砂防事業及び地すべり対策事業については、以下の取組を通じ、個別事業箇所の優先順位の明確化、効果の低い事業の中止や事業内容の見直し等によるコスト縮減を積極的に実施する。


(1)評価単位のあり方
 河川事業及び砂防事業の個別箇所について、一つの事業として評価する単位を明確化し、個別にB/C分析を行う。


(例)

河川改修事業:一定の期間内(5年程度)に一連の河川区間で各種工事(築堤、河道掘削等)を行い、その区間の流下能力を向上(治水安全度を向上)させる事業を一つの単位として、個別にB/C分析を行う。
砂防事業  :土砂災害を防御する対象区域に対して行う事業(砂防堰堤、流路工等)を一つの単位として、個別にB/C分析を行う。
⇔ 両事業とも、現在は水系単位でB/C分析を実施。


(2)分析手法の見直し
 砂防事業及び地すべり対策事業のB/C分析マニュアルは、平成12年に改定後、見直しを行っていないため、早急に見直しを行う。その際、砂防事業の「安心感向上便益」及び「山地森林保全便益」については、対象区域又は山地に限定した効果の算出とする。


【道路整備勘定】
(1)他の交通機関への影響の反映
 道路整備事業については、他の交通機関(鉄道等)に及ぼす交通需要減の影響が比較的生じやすいと考えられることから、これをコスト(マイナスの便益)として着実に分析に反映させる。


(2)B/C分析を活用したコスト縮減
 道路整備事業については、規格や車線数等の事業内容について弾力的対応の余地が比較的大きいと考えられることから、感度分析の結果の反映を着実に実施することに加え、B/Cが低位の事業について、事業内容の見直しによるコスト縮減を必ず実施する。


(注)道路整備事業については、過去にB/C1.5以上を運用上の基準としていたことを踏まえ、1.5未満の場合を対象とすることが考えられる。


【港湾勘定・空港整備勘定】
(1)過去の需要予測と実績の乖離状況の明示
 港湾・空港の整備事業の新規採択時評価にあたっては、当該港湾・空港についての過去の需要予測と実績の乖離状況を注記する。


(2)感度分析の厳格な実施
 港湾・空港に係る感度分析にあたっては、これまでの需要予測と実績の乖離状況を踏まえ、感度分析の変動幅について、標準的な±10%にとらわれず、過去数年に発生した実際の乖離を踏まえた変動幅を採用する。


【港湾勘定】
○ 需要予測とB/Cの総点検
 国土交通省の「将来交通需要推計手法検討会議」が本年8月に公表した「中間取りまとめ」によると、道路・鉄道・空港については、「総点検」と称して、現在事業を行っている全事業箇所と来年度の新規事業箇所について、改善された手法に基づく需要予測の再実施及びB/Cの確認を実施するとされているが、港湾整備の個別事業についてはこの「総点検」の対象外とされている。
 港湾整備事業についても、これまでの需要予測と実績の乖離の状況を踏まえ、全箇所について需要予測とB/Cの総点検を早急に実施し、これを23年度予算編成に反映させる。あるいは、改善のための別の手法を検討する。