公職選挙法という選挙は面白いものでして、本当にありとあらゆる法の隙間を考える人はいるものだということを痛感します。いたちごっこだよな、と思います。法律というのは「禁じられていないものはやっていい」ということになっておりまして、その隙間を考え付く能力には感心をします。


 一番分かりやすいのが、いわゆる「二連ポスター」と業界では呼ばれているものです。これは何かというと、例えば「緒方林太郎」、「菅直人」、「民主党」のスペースが1/3ずつに分かれていて、街頭演説等の告知を行うポスターです。あれは公職選挙法に、任期満了前6ヶ月間は、その選挙に出馬予定の人間の個人ポスターは貼ってはならないという規定があることの裏を突いたものなのです。つまり、私が出る選挙について言えば、任期満了の6ヶ月前から「緒方林太郎」のポスターは掲示してはいけないのですが、「緒方林太郎」、「菅直人」が行う街頭演説を「民主党」が告知するポスターは、個人ポスターではないという解釈になっているのです。ただし、個人のポスターでないという解釈を突き詰めれば、「緒方林太郎」や「菅直人」に割かれるスペースは、「民主党」のスペースを越えてはいけないということになるわけでして、結果として、個人に割かれるスペースを最大化しようとすると3つのスペースを1/3ずつに均等するのがいいということになります。したがって、概ね選挙の6ヶ月前くらいになってくると、そういうポスターが増えてきます。しかし、これは全く公職選挙法には書いていないことです。すべては「論理的に考えればこうなるんじゃないか」ということに尽きます。


 それと同様に、昔から「やってみようかな」と思いつつ、先の選挙ではやれなかったことの中に「音声の頒布」というのがあります。選挙は公示(告示)をされますと、文書の頒布というものが一定の条件で認められるもの以外は禁じられます。ビラには制限がかかります。頒布が禁じられるものとして、文章が書いてあるメールも含まれます。しかし、ここには「音声」は含まれません。そもそも、今のように音声ファイルが電子データとして存在していて、それを頒布することができるような時代に作られた法律ではありません。したがって、純粋に音声だけを頒布する行為は公職選挙法では禁じられないのです。なので、例えば、個人名を類推させないようなファイル名の音声ファイルをメールに添付し、メールには何も書かず送信することはOKだとされています。更に厳密に言えば、メールアドレス自体が個人名を類推させることは禁じられるのだろうと思います。しかし、そういう条件を完全にクリアーする限りは、現行の公職選挙法上で音声を頒布する行為は問題ないわけです。ということなので、例えば選挙期間中毎日、情勢報告として私が「緒方林太郎です。今日は選挙戦○日目です。今日は○○をやりました。また、頑張りますので、是非緒方林太郎を多くの方に広めていただきますようお願いいたします。」みたいな録音をして、それを知り合いに広くメールで送信することは(上記の条件をクリアーする限りは)できるのですね。勿論、投票依頼行為もOKです。


 同様に「どうかな?」とかつて考えたのが、mixiでの「足あと」。公示後は文章メールを送信したり、ブログの更新は禁じられますが、ウェブを見る行為は禁じられているわけではありません(当たり前です)。そこで、「足あと」機能がある、mixiを始めとするSNSで色々な人のページを覗いていけば、結果として私の足あとが残りますね。そして、足あとが付けば、付いた相手の方は「足あとを残してくれたのは誰かな?」と思って、私のページを見てくれる可能性がかなりあります。そこで自分のページをしっかり作りこんでおけば、それなりに宣伝にはなるわけです。SNSでは居住自治体名で検索できる機能がありますので、選挙区の地方自治体で検索にヒットした方にひたすら足あとを付けていくという一見不毛な作業をすれば、それなりに宣伝にはなるはずです。ただ、これはよく調べてみると、「普段そういうことをしていないのに、選挙公示後に足あとを付けることを目的として他人のページを見る行為というのはダメ」という判断になるようです。まあ、そうだろうなと思います。ということで、私はこれまでもこれからもそういうことはやりません。


 こうやって書くと、「公職選挙法改正でネットの活用緩和の法案が上がろうとしていたのに、それが成立しなかったのは政権与党の責任だ。」というご批判があるでしょう。そのご批判は甘受いたします。ただ、ここで私が言いたかったのは、公職選挙法には「上に政策あれば、下に対策あり」という世界があるという話です。ネットの活用緩和をすれば、結果として制度改正で想定されていなかったような効果を持つ裏技が出てくるのではないかと、ちょっと楽しみではあります。