何度か書いていますが、WTOドーハラウンド交渉が妥結する際には、コメをどうやって保護するかという問題が出てきます。色々と思いはあるのですが、一番やりやすい方策を提示したいと思います。以下においては、テクニカルタームは所与のものとして書きます。


 まず、今のドーハラウンド交渉の結果としてありうる選択肢は、「現行諸ルールを前提とする限り」2つしかありません。一つ目は、コメを重要品目に指定することにより、関税の下げ幅を20%台前半に留めるかわり、コメの輸入枠を76.6万トンから114万トンまで受け入れる。二つ目は関税の下げ幅をすべて受け入れ、今の341円/kgが102円/kgまで下がることを受け入れる。


 この2つ以外の選択肢は現実的ではないでしょう。「気合い入れて再交渉しろ」という声が国会の内外にありますが、ジュネーブでの交渉ルールを知らない人間の戯言の域を出ません。


 そして、一つ目の選択肢だとコメの国内価格にガンっと下落圧力が掛かってきます。また、軽々に「そんなのはコメの所得保障で面倒を見ればいいのだ。」という議員もいます。私がある有識者から聞いたところでは、コメの個別所得保障の「変額部分」においては、コメの60kg当り価格が1円下がる毎に国庫負担は1億円増加だそうです。1000円下がれば1000億円です。そして、今年の戸別所得補償制度で「変額部分」として用意されている予算は1300億円です。コメの価格が1300円以上下がれば、補正予算か予備費になるはずです。そんな中、国内価格が下がれば全部コメの戸別所得保障で面倒見るなんていう無責任な発言はあり得ません。


 二つ目の選択では、私の試算ではそこまで関税が下がれば、中国産短粒種には勝てなくなるでしょう。アメリカだって相当に努力するはずです。関を切ったように外国産米が国内市場に入ってくる可能性が高くなります。


 となると、「現行諸ルールを前提とした」妥結策は上手くいかない可能性が大なのです。つまり、「現行ルール」を変える必要があります。そこで出てくるのが「ウルグァイ・ラウンド農業協定におけるコメのミニマム・アクセス機会の法的性格に関する政府統一見解」の見直しです。これは、平成6年5月27日の衆議院予算委員会で加藤六月農相が表明した立場です。


一、コメについて、ウルグァイ・ラウンド農業協定に基づきミニマム・アクセス機会を設定する場合、我が国が負う法的義務の内容は、コメの国内消費量の一定割合の数量について輸入機会を提供することである。
二、但し、コメは国家貿易品目として国が輸入を行う立場にあることから、ミニマム・アクセス機会を設定すれば、通常の場合には、当該数量の輸入を行うべきものと考えている。
三、しかし、我が国が輸入しようとしても、輸出国が凶作で輸出余力が無い等客観的に輸入が困難な状況もありえないわけではなく、かかる例外的なケースにおいて、現実に輸入される数量がミニマム・アクセス機会として設定される数量に満たなかったとしても、法的義務違反が生ずるものではないと理解している。


 最近、私はこの見解を根本的に見直した方が良いのではないかと思っています。「76.7万トンのミニマムアクセスは輸入義務じゃないけど、日本は国が一元的に輸入するという制度を取っているから、機会の提供イコール全量輸入なのである。」といく見解を見直せば、上記のような問題は解決するでしょう。内外価格差が縮まってきていることからも、もはや、日本が国家貿易をやっているからといって全量輸入する必要はない、と言い張ることを検討してはどうかということです。


 今、ミニマムアクセスで5割近いシェアを有しているアメリカはこれに反対するでしょう。しかしですね、よく考えていただきたいのは、本当に外国から自由に良いコメを輸入すれば、アメリカ産は弾かれる可能性が高いのです。それでも、コメのミニマムアクセスの枠内ではアメリカ産が非常に優遇されています。一説には、ウルグアイラウンド妥結の際、ミニマムアクセスの枠内での米国産米のシェアについて密約が存在しているという噂があります(私は本当に知りません)。一度、「そういう密約はないですか?」と国会で聞いてみたいくらいです。


 あるならあるで問題ですし、ないならないで、仮に日本の政策変更で(輸入数量自体が下がるかどうかはともかくとして)米国産米のシェアが下がっても問題ないわけです。


 私は農業の現場を知っていると言える立場にはありません。ただ、この分野だけは変に知っています。ちょっと平成6年政府統一見解の見直しで色々な人に粉を掛けてみようかと思っているところです。