アメリカの核態勢見直しが発表されました。ポイントは色々とありますが、消極的安全保証(negative security assurance:NSA)というものが結構大きいです。


 これは何かというと、大まかに言うと「あなたが核兵器を保有しないなら、アメリカはあなたに核兵器を使うことはありませんよ。」というようなものです。本当はもう少しバラエティがあるのですが、まあ、そんなものだと思っていただければOKです。


 今回のNSAは、これまで私が知っているNSAと比較すると「結構、緩いな」という感じがあります。文章で見てみましょう。


【今回の核態勢見直しのケース】

The United States will not use or threaten to use nuclear weapons against non-nuclear weapons states that are party to the Nuclear Non-Proliferation Treaty and in compliance with their nuclear non-proliferation obligations.

(注:この後に、生物、化学兵器を使う相手には通常兵器で大規模な報復を行うし、将来の技術発展次第ではこの約束自体を見直すこともあると念押しはしてある。)


 ここですと、核不拡散条約に加盟し、そしてその義務をきちんと守っている非核兵器国には、アメリカは核兵器を使いませんよ、ということが書いてあります。上記の(注)でも書いているように、生物兵器、化学兵器に対する抑止力は、通常兵器に委ねられることになります。たしかに、将来の変更の可能性があるとは言え、ちょっと弱いんじゃないかという感じです。アメリカ政府は「単に核兵器を使わない約束をするだけであって、いくら非核兵器国でも行い次第では通常兵器でボコボコにされる可能性はある」と強調していますが、抑止という観点からはどうしてもハードルは下がりました。


 たしかに核不拡散条約への加盟と義務履行をネタに、北朝鮮とイランを呼び込もうとしているメッセージは感じます。そのために、少しハードルを下げているのでしょう、普通に考えれば。


 かつて、ウクライナが独立した後、核兵器を放棄してもらうために米英露がウクライナにNSAを提供しました。その時の文章と今回の文章を比較してみれば、結構、アメリカが緩くなっているのが分かると思います。


【ウクライナへのケース】

The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, reaffirm, in the case of the Ukraine, their commitment not to use nuclear weapons against any non-nuclear-weapon State Party to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons, except in the case of an attack on themselves, their territories or dependent territories, their armed forces, or their allies, by such a state in association or alliance with a nuclear weapon state.


 ポイントは「except」以降でして、核兵器国と「association」や「alliance」があるような国から同盟国に攻撃がある際には、核兵器を使用する可能性を留保していますね。つまり、その国が核不拡散条約に加わっており、かつ核兵器を持っていなくても、その国が核兵器国と「association」や「alliance」があるだけでダメなのです。しかも、同盟国が受ける攻撃が通常兵器によるものであっても、核兵器を使う抑止の可能性を残しています。当然、生物兵器、化学兵器に対する抑止力もここでは働きます。


 そこから比較すると、アメリカはかなりの譲歩をして、イランや北朝鮮に撒き餌をしたつもりなのかもしれません。ただ、私はイランや北朝鮮はこの撒き餌には食いつかないと思います。


 よく、こんな政策を軍が了承したなぁ、と思います。