国後島周辺で「北方四島周辺水域操業枠組協定」に基づいて、操業していた操業船に対して、ロシアの国境警備隊が銃撃したという事件がありました。
まあ、色々な背景があるのですが、一つとても疑問に思うことがありました。それは、日本側からロシア側への申し入れが「電話」でなされたということです。外務省欧州局長から、駐日ロシア大使に電話をして抗議をしたそうです。
・・・「電話」じゃないだろ、「電話」じゃ。外務省に呼びつけてガツンと言えよ、そう思います。この事実一つ取ってみても、とても気弱なものを感じます。逆の立場で似たような事例があれば、ロシア外務省は駐ロシア日本大使を外務省に呼びつけるでしょう。そもそも、「大使」というのはそういう時にいるものなのです。
多分、外務省に聞くと「時間的に早く抗議する必要があったから電話にした」という屁理屈を捏ねるでしょう。もしかしたら、「大使が東京にいなかった」と言うのかもしれません。ひょっとすると、ロシア大使館側が「局長は大使のカウンターパートでない」とタカを括ったのかもしれません。ともかく、こういう日本が軽々しく見られるような振る舞いはダメです。どういう理屈であっても、不愉快な事例です。
ちなみにこの「北方四島周辺水域操業枠組協定」というのは、外務省条約局(当時)的には「芸術的」とでも言えるような代物です。これは北方領土を基点とする領海部分で操業することについての協定です。日本は北方四島が自国の領土であるという立場を堅持した上で、操業についてはロシアの管轄権に服さないという前提で交渉に臨みました。勿論、ロシア側はうちの領土だということで交渉したわけで完全にガチンコです。これを最終的にどうやって纏めたかというと、管轄権、特に操業規制の部分を協定から完全に落としてしまったのです。お互いが信頼の元に、双方がきちんとルールを守ることを暗黙の了解とした上で、日本船の操業を可能にしたのです。(通じにくいかもしれませんが)これは殆ど「芸術的」とも言える内容です。今、交渉してもこんな協定にはならないこと請け合いです。
(注:昔、居た部局なのであまり言いたくありませんが、外務省の条約関係の情報提供は遅れてますね。この協定を検索しても全然ヒットしません。研究者の方々は困っているでしょうに・・・。)
である以上、実は日本側がその「暗黙のルール遵守」をしている限りにおいて、ロシア側から銃撃されるようなことが協定上全く想定されていないのです。ただ、近年、ロシアの姿勢に変化が見られるようになっています。銃撃、拿捕が相当に行われるようになっています。協定を無視しているのではないかとすら思える姿勢です。
だからこそ、「電話」でやるなよ、と思います。この件については、常に強気でロシアをガンガン押していかないと、先陣の芸術品がどんどんなき物になっていってしまいます。