外国人に対する地方参政権の付与についてですが、憲法上の論点については以前書きました。この議論を一歩一歩進めていくためには、それなりにデータを揃えていく必要があると思っています。そこで私が注目するのは、(1)外国における永住日本人の地方参政権、(2)日本に永住している外国人の本国における国政参政権の2点です。その中でも、特に大韓民国との関係で見ていきたいと思います。今日のエントリーは基本的には国立国会図書館から頂いた資料からの引用が多くオリジナリティに欠けますが、こういうモノも必要だと感じますので、あえて書き残しておきます。


 各位の参考に資するような中立的な内容に努めているつもりですので、罵倒系のコメントはご容赦ください。


● 外国における永住日本人の地方参政権

 平成21年度版の海外在留邦人人数統計(含未成年)を見てみると、中国には125928人(長期滞在者124480人、永住者1448人)、韓国には27102人(長期滞在者20837人、永住者6265人)の在留邦人がいます。この中で特筆されるのは、韓国への永住者が急上昇中だということです。平成16年度統計では韓国への永住者は59人でしたので、その上昇ぶりが本当に目立ちます。


 ここで、外国人に対する地方参政権の付与について規定する韓国公職選挙法の条文を書き連ねておきます。 出典は国立国会図書館作成資料です。


【公職選挙法第15条(選挙権)】
第1項 19歳以上の国民は、大統領及び国会議員の選挙権を有する。
第2項 次の各号の一に該当する者は、その区域で選挙する地方自治体の議会議員及び長の選挙権を有する。

1. 19歳以上の国民で、第37条(名簿作成)第1項の選挙人名簿作成基準日現在、当該地方自治体の管轄区域内に住民登録がなされている者
2. 「出入国管理法」第10条(在留資格)の規定による永住の在留資格取得日後3年が経過した19歳以上の外国人で、第37条第1項の選挙人名簿作成基準日現在、「出入国管理法」第34条(外国人登録票等の作成及び管理)の規定により当該地方自治体の外国人登録台帳に登載された者


 そして、上記「出入国管理法」第10条(在留資格)の規定による「永住」については、出入国管理法施行令の別表1に規定されています。(D-8)とか、(F-5)とかが何を意味するかは分かりませんが、読みこなしていく上で、それが理解できなくても差し支えはありません。


【出入国管理法施行令28の3 永住】
 出入国管理法第46条第1項各号の一に規定する強制退去の対象にはならない者で、次のいずれかに該当する者
a. 米貨200万ドル以上を投資した外国人投資家で、国民を5人以上雇用した者

b. 米貨50万ドル以上を投資した外国人投資家で、企業投資(D-8)資格で3年以上国内に継続して滞在しており、国民を3人以上雇用した者

c. 法務部長官が定める分野の博士学位証を所持する者で、永住(F-5)資格の申請時に国内企業に雇用されており、法務部長官が定める金額以上の賃金を得ている者

d. 法務部長官が定める分野の学士以上の学位証又は法務部長官が定める技術資格証を所持する者で、国内在留期間が3年以上であり、永住(F-5)資格申請時に国内企業に雇用され、法務部長官が定める金額以上の賃金を得ている者

e. 科学、経営、教育、文化芸術、体育等の特定分野において卓越した能力を有する者のうち、法務部長官が認定した者

f. 大韓民国に特別な功労があると法務部長官が認めた者

g. 海外から年金を得ている60歳以上の者で、年金の年額が法務部長官が定める金額以上の者

h. 大韓民国「民法」による成年であり、本人又は同伴家族が生計を維持する能力があり、品行がよく、大韓民国に継続して居住するのに必要な基本知識を備える等、法務部長官が定める条件を備えた者で、芸術興業(E-6)資格を除く駐在(D-7)から特定活動(E-7)までの資格又は(F-2)の資格で5年以上大韓民国に在留している者

i. 国民又は永住(F-5)資格を有する者の配偶者又は未成年の子女で、大韓民国に2年以上在留している者で、大韓民国に永住する必要があると認められる者


 こういう規定ぶりの中、実際には、「h」に該当する華僑が圧倒的多数であり、2005年の統一地方選挙時点では華僑と日米の国籍を有する者以外の者は9名しか存在しないかったようです。


 この出入国管理法施行令を見る限り、「永住」の要件は厳しいですね。高学歴、高収入の人達が視野に置かれているような印象があります。今年、韓国では統一地方選挙があります。上記の通り、韓国では永住権を取得してから3年で外国人は選挙権を取得します。平成19年5月時点での在留邦人統計では2903人が永住しているようです。日本の在留邦人統計における「永住者」がすべて上記の韓国出入国管理法施行令における「永住」の要件を満たしているかは分かりません。仮に日本人はすべてその要件を満たしていると仮定して、更に未成年者を外してみると、最大で概ね2000人程度の日本人が韓国統一地方選挙での選挙権を有するということになるだろうと思います。


● 日本に永住している外国人の本国における国政参政権

 まず、日本における外国人登録者を見てみましょう。登録していない人もいますし、未成年も含んでいます。10万人以上の国は以下のとおりでした。法務省の統計では韓国・朝鮮は分けられていないので、両地域の間でどういう配分になっているかは分かりません。


【外国人登録者(平成21年度在留外国人統計)】
・ 中国 655377人
・ 韓国・朝鮮 589239人
・ ブラジル 312582人


 では、ここで韓国内でこれら我が国で外国人登録されている方にどういう参政権が付与されているかということを見てみたいと思います。


 実は昨年2月に改正公職選挙法が公布され、在外韓国人への国政選挙投票が可能となっています。日本生まれの在日韓国人を含む海外永住者も国政選挙において投票することが可能になりました。なお、韓国国会に提出された韓国の「在外同胞」は約700万人、このうち韓国国籍を有する「在外国民」は約302万人だそうです。この在外国民のうち、在日韓国人を含む永住者は約147万人、駐在や留学などの理由による海外在住者は約155万人。147万人の永住者は米国(73万人)、日本(52万人)が圧倒的に多く、カナダ(8万人)、中南米(7万人)と続くとあります。そして、韓国中央選挙管理委員会は、19歳以上の在外国民を約240万人と見積もっているそうです。


 上記の通り、外国に永住している韓国人が多いため、韓国国内でこの参政権付与は相当に議論が白熱していていたみたいです。元から上記公職選挙法の引用でもあるように、19歳以上の国民に選挙権があると書いてある一方で、海外永住者は住民登録をすることができないため、実質的には海外永住者には権利がないということになっていました。


 そのことについて1997年に、在日韓国人の方々が憲法裁に訴訟を起こしたのですが、1999年、韓国憲法裁は、事実上海外永住者が投票権を得ることが出来ないことについて合憲との判断をしています。その理由がなかなか面白いので、国会図書館の資料をそのまま引用します。


【1999年韓国憲法裁判決】
・ 大法院の1999年時点までの判例によれば、北朝鮮の住民や朝鮮総連系の在日同胞についても大韓民国の国民として認めている。そのため、すべての「在外国民」に選挙権を認めると、北朝鮮住民や朝鮮総連系の在日同胞も選挙権の行使が可能となる。場合によってはこれらの者が決定権を行使することもありうるため、分断国家という現実から在外国民に選挙権を付与することはできない。

・ 選挙において公正性の確保が困難である。

・ 技術的な問題として、外国にいるすべての国民に選挙の実施及び候補者について公報し、選挙運動を行い、投票用紙を発送して回収することは実務上不可能である。

・ 選挙権は国に対する納税、兵役その他の義務と結び付けられているので、このような義務を履行しない在外国民に選挙権を認めることはできない。


 しかし、再度議論が盛り上がり、2004年に再度憲法裁への訴が提起されました。これに対して、2007年、憲法裁判所は一転して1999年判決を変更する決定をしています。この判決も面白いですので、そのまま引用します。


【2007年韓国憲法裁判決】
・ 在外国民は韓国の旅券等を所持しており、北朝鮮住民や朝鮮総連系の在日同胞との区別が可能である。
・ 選挙の公正性に対する恐れがあるという理由で、民主国家の機能的前提である選挙権行使を特定の国民に対し拒否することはできない。
・ 技術上の問題点は、インターネット等情報通信技術の発達等により克服できるため、選挙権制限の合理的な理由にならない。
・ 憲法は国民の基本権行使を納税と国防の義務履行の見返りとしていないだけでなく、在外国民にも兵役義務履行の道が開かれていること、在外国民の中には兵役義務と無関係な女性や、兵役義務の履行者もいることを勘案すれば、この理由によって選挙権を否定することはできない。
・ 選挙権の制限は、その制限を不可避に要請する個別的・具体的事由が存在することが明白な場合に限り正当化されるもので、漠然とした抽象的な危険や国家の能力によって克服できる技術上の困難及び障害等によって正当化されるものではない。


 何がこの判決の変更をもたらしたのかは分かりません。韓国がどんどん国際化しており、その要請に応える必要があったのか、技術力の向上を背景にしたものなのか、まあ、色々な考え方ができるでしょう。何となく、韓国という国が自信を深めつつあることが背景にあるような気もします。憲法裁は2008年12月末までに法改正を促しており、これを受けて、韓国国会は公職選挙法改正を行っています。


 その審議についても、国会図書館資料にはとても面白いことが書いてあるのですが、あまり書き抜きばかりやっていると、国会図書館からお叱りが来そうですので避けときます。結果として在日韓国人を含む永住者については、地域区国会議員選挙を除く国政選挙に限定するという結論に至ったようです。


 とても、長いエントリーになりました。